行幸 その三

 人々はまたとないすばらしい見物に我先にと争って出かけていく。それほどの身分でないものが、粗末な足弱の車などで来て、車輪を押しつぶされてあわれな様子になったものもいる。


 桂川の浮橋のあたりなどにも、まだ場所が決まらず、風情を見せてうろうろしている立派な女車が多い。


 西の対の玉鬘も、見物に出かけた。大勢の人々が、我こそはと競って綺羅を尽くしている顔だちや姿を見るにつけても、帝が赤色の袍を着て、端然と正面を向いたまま身じろぎもしない容姿に、比べられる人もいなかった。


 玉鬘は父君の内大臣の姿に人知れず目をつけている。


 内大臣は何となしにきらびやかでいかにも美しく、男盛りでいるけれど、やはり親王方とは格が違った。人臣としては最高に抜きんでた人と感ずるだけで、玉鬘には御輿の中の帝よりほかに目移りしそうもない。まして美男だとか、すてきだなどと言って、若い女房たちが死ぬほど恋焦がれている中将や少将、誰彼の殿上人たちなどはものの数でもなく、見渡しても帝以外誰一人目にも入らないのは、帝がまったく比類ないからなのだった。

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