野分

　秋好む中宮の御殿の庭に、秋の花を植えたのが、今年は例年よりも美しく見栄えがする。様々な種類の草花を集めつくして、その中に風情のある黒木や赤木の籬垣を、花の間に低く立てめぐらせている。同じ花なのに、枝ぶりといい、様子といい、その上に置く朝露や夕露の光までもありふれたものには見えず、玉かとばかりに光り輝いている。

　わざわざ秋の野原のように造られた広々とした景色を眺めわたすと、あの紫の上の御殿の、春の山の美しさもすっかり忘れてしまいそうになる。この庭の爽やかな興趣に、魂までうっとりと漂い出すような思いがするのだった。

　春秋の優劣を争うときに、昔から秋をひいきにする人のほうが多かったのに、六条の院では、名高い春の御殿の花園の見事さに心から感銘した人々が、今はまた掌をかえすように心変わりして、秋の庭の美しさに心を移してしまうありさまは、時勢におもねりなびく世の中の人の心そのままだった。