篝火 その三

 秋になった。季節の初風が涼しく吹き始めて、古歌にも<わが背子が衣の裾の裏>も、秋風に吹かれて寂しいと歌っている季節なので、光源氏はうら寂しさのつのる心をこらえきれなくなる。しきりに西の対に出かけて、終日を過ごし、玉鬘に和琴などを教えていた。


 五、六日ごろの夕月が早くから西の山に沈み、薄曇っている空の風情や、風に鳴る荻の葉擦れの音も、次第に身にしみるころになってきた。光源氏は、琴を枕にして玉鬘と一緒に寄り添って横になっている。こうまで慣れ睦んで、なお清らかな仲という、不思議な男女の関係がまたとあろうかと、ともすればため息も洩れがちに、悩ましく夜を更かしていた。それでも女房がおかしいと疑うかもしれないと気になるので、帰ろうとする。


 庭前の篝火が少し消えかかっていたので、お供の右近の大夫を呼んで、篝火を明るく焚くように命じたのだった。

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