蛍 その五

 女房の宰相の君なども、兵部卿の宮の返事の取次も、どうしていいかわからず、ただ、恥ずかしくてもじもじ座っているだけだった。それを光源氏は、何をぐずぐずしているとばかり、袖を引いてつねったりするので、宰相の君はますます困っている。


 夕闇のころも過ぎて、新月の影もあるかなきかのおぼつかない空模様は曇りがちなところに、もの思わしそうにしんみり見える兵部卿の宮の様子も、本当に優艶だった。御殿の奥からほのかに漂ってくる香りに、いっそうすばらしい光源氏の着物の薫りが添い匂うので、あたりいっぱい言いようのない芳しさが香り満ちている。兵部卿の宮はかねがね想像していたよりもはるかに風情のある玉鬘の気配に、いっそう深く心を惹かれるのだった。恋い慕う胸の想いの数々を、訴え続ける言葉も、落ち着いていて、ただ一途に色めいたふうでもなく、その雰囲気はほかの人とは大いに異なっている。光源氏は、これはなかなか興味があるとそっと耳を傾けるのだった。

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