胡蝶 その三十五

 こうして、事の真相を知る人は少なくて、世間の人も、身近なものも、光源氏をまったく実の親と思い込んでいるので、玉鬘は、



「もしこんな気配が少しでも世間に漏れ噂になれば、どんなにひどくもの笑いにされ、悪評が立つことだろう。父頭中将などが、私を探し出してくださっても、それでなくても親身になってくださるお気持ちはないように思われるから、こんなことを知られたら、まして浮ついた女だとひどくお蔑みになることだろう」



 と、何につけても心配で、思い悩んでいるようだった。


 兵部卿の宮や髭黒の右大将などは、光源氏の意向が、まったく望みがないというわけではないと人伝に聞き、ますます熱心に思いを込めた手紙を寄こす。


「岩漏る水に」の歌を届けた頭中将のところの柏木の中将も、光源氏が認めているということをみるこから仄かに聞いて、本当の姉弟という事情は知らず、ただもう一途にうれしくて、懸命に恋の恨み言を訴えた手紙を書いては、玉鬘の周りをうろうろとしているのだった。

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