初音 その八

 こんなふうに、何の隔てもなくいつも光源氏と逢っているものの、やはり考えてみると、実の父親でもないので、玉鬘としては、どこか気のおけるところも多く、何となくしっくりしないものがあり、何か夢を見ているような感じがしたので、光源氏に対して、心から打ち解けた態度は見せない。それもまた、光源氏にとっては、興をそそられることなのだった。



「もう何年もこうして一緒にいたような気がして、お目にかかっても気がねがありません。私は年来の望みが叶ってとてもうれしいのです。あなたも何の遠慮もなさらないで、紫の上のところにも出かけなさい。あちらでは琴の手ほどきを受けている幼い姫もいますから、一緒にお稽古なさるといいでしょう。あちらには気の許せない軽々しくおしゃべりするような人などはおりませんから」



 と言うと、



「おっしゃる通りにいたしましょう」



 と答えた。いかにも適切な返事だろう。

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