玉鬘 その五十六

「本当にこういう方がいらっしゃったのを、一向に存じ上げませんでした。姫君がお一人しかいらっしゃらないのはお淋しいことですから、それは本当によろしゅうございました」



 と、花散里は、鷹揚に言う。



「娘の母親だった人は、珍しいほど性質が素直でした。あなたのご気質も安心してお願いできるものですから」


「ろくなお世話も若君にはしておりませんので、暇で退屈しておりますから、そんな御用はこちらこそうれしゅうございます」



 花散里は、いたって鷹揚に、その話を聞き入れた。


 六条の院の女房たちは、玉鬘が光源氏の娘とは知らずに、新しい光源氏の女君だと思って、



「どんな方をまた探し出していらっしゃったのかしら。厄介な骨董趣味だこと」



 と噂している。


 車を三輌ばかり連ねて移った。女房たちの身なりなども、右近がついているので、田舎っぽくならないようにすっきり仕立てている。光源氏からは、綾とか、ほかにも何かと支度してあげていた。

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