玉鬘 その五十四

 こういう話は、九月のことだった。玉鬘の六条の院への移る件は、そんなにすらすら運ぶものではない。


 乳母は適当な女童や、若者などを探させる。筑紫では、京から流れてきたという女たちなどを、つてをたよって呼び集めたりして、一通り気の利いた女房たちも仕えていたが、急に慌てて逃げ出してきた騒ぎに、みんな筑紫に残してきてしまったので、ほかに女房もいないのだった。それでも京は何といっても広いところなので、市女という物売り女などが、上手に探しては、女房の候補者を連れてきた。こちらがどなたの姫君ということは内緒にしてのことだった。


 右近が五条の自分の里にまずこっそり玉鬘を移してから、こうして女房を選び揃えて衣裳を調えたりして、いよいよ十月に六条の院に移った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る