玉鬘 その五十二

 玉鬘の住む部屋を、どこにしようかと光源氏は考える。紫の上のいる南の町の邸には、空いている対の部屋などもない。紫の上が大層な威勢で、女房も多く集め、余すことなく使い切っているので、人の出入りも多く人目にも目立つだろう。秋好む中宮がいる西南の町は、こういう人の住むのにむいていて閑静だが、そこに住めば、中宮に仕えている女房たちと同列に見なされるかもしれないと心配になるのだった。


 少し陰気なようだが、東北の花散里の住むところでは、西の対が書庫になっているのをよそに移して、そのあとへ玉鬘をと考えた。


 花散里は控えめな気立てのやさしい人なので、仲睦まじく話し合って暮らすことができるだろうと決めたのだった。


 紫の上にもはじめて、あの遠い昔の夕顔の君との恋を打ち明けた。紫の上は、こうした長い間心に秘めていたことを恨んだ。



「それは無理ですよ。生きている人のことだって、聞かれもしないのに誰が自分から話すでしょう。こうした機会に何もかも打ち明けてしまうのは、あなたを誰よりも格別に大切に思っているからこそですよ」



 と言って、とても感傷的に昔のことを思い出すのだった。

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