乙女 その二十六

「こちらにどうぞ」



 と、夕霧は、雲居の雁とは几帳を隔てて招じいれられた。頭の中将は、



「この頃はさっぱりお目にかかれないですね。どうして、そんなに学問ばかりに打ち込んでいらっしゃるのですか。学問があまり出来すぎて、身分が追いつかないのも困ったことだと、光源氏様もご承知のはずなのに、こんなふうに格別にお仕込みになられるのは、何かわけがあるのでしょうな。それにしてもあなたがこんなに勉強ばかりして閉じこもっておいでなのは、お気の毒に思いますよ」



 と言って、



「時々はほかのこともなさったほうがいい。笛の音などにも、昔の聖賢の教えは伝わっているものですよ」



 と、横笛をさしあげた。夕霧はそれを若々しく美しい音色に吹きたてた。その音色があまり見事で感興をそそられるので、頭の中将はお琴などはしばらくそっちのけにして、拍子を大げさでないほどにしゃくで打ち、



〈萩の花ずりや、さきむだちや〉



 などと催馬楽を謡ったのだった。

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