朝顔 その三十二
翌朝は早く起きて、そうとは殊更言わず、藤壺の宮の菩提のために、ほうぼうの寺々に供養の誦経をあげさせた。冥界の苦患を受けていると、夢の中で恨んだのも、藤壺の宮自身がさぞ言葉通りに考えているのだろうと思った。生前は勤行に励み、何かにつけて罪障も軽くなったように見受けられたのに、あのたった一つの秘密のために、まだこの世の穢れをすすぎきれないでいるのだろうか。よくよくことの道理を深く考えてみると、どうしようもなく悲しくてたまらないので、どんなことをしてでも、知る人もない冥界でさ迷っているところへ訪ねて、罪の苦患を代わってさし上げたいと、心の底から思い、沈んでいた。
藤壺の宮のために、取り立てて法要などを営めば、世間の人に怪しまれるだろうし、帝も気を廻して、思わぬ心配をするかもしれないと、気をつかい、ただ阿弥陀仏を一心に祈った。来世こそは同じ蓮の上にと願って、
亡き人を慕ふ心にまかせても
影見ぬみつの瀬にやまどはむ
と思うのも、情けないことだった。
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