朝顔 その二十五

 そんなわけで、二条の院の紫の上にも、ついつい御無沙汰の夜が重なった。紫の上は冗談ではすまされない気持ちになり、こらえてはいるが、思わず涙のこぼれるときもあるのだった。光源氏は、



「何だかいつもと違って様子が変なのは、どうかしましたか」



 と言って、紫の上の髪を掻きやりながら、さも愛しそうにする様子は、絵にも描きたくなるような二人だった。



「藤壺の宮が亡くなってからは、帝がとても淋しそうにしているのが、おいたわしくてなりません。太政大臣もいらっしゃらないので、政務を任せる人もいないために忙しいのです。それでこの頃はつい留守にしがちなのを、これまでにないことと、恨んでいらっしゃるのはもっともだし、可哀そうですが、いくらなんでも、もう今は安心してください。あなたはもう大人になられたはずなのに、まだ一向に思いやりがなくて、私の心もお分かりにならないようなところが、また可愛らしい」



 と、涙が濡れてもつれている紫の上の額髪をつくろった。紫の上はいっそう顔をそむけて、ものも言わないのだった。

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