薄雲 その三十三
王命婦は御匣殿の別当がよそに転出したあとに移って、部屋をもらって仕えていた。光源氏は王命婦に会って、
「亡き藤壺の宮はあの秘密を、もしも何かの折に帝にほんの少しでもお漏らしになられたことがあっただろうか」
と尋ねたが、王命婦は、
「まったく、そのようなことはございません。藤壺の宮様がほんの少しでもこのことを聞きましたならば一大事だとお思いでした。しかしまた一方では、帝に真実を申し上げなくては、子としての道に外れ、仏罰を被ることになりはしないかと、やはり帝のために案じて、悲しんでいました」
と言った。光源氏はそれを聞いても、並々ならず思慮の深かった亡き藤壺の宮の様子などが思い出されて、限りなく恋しく慕った。
前斎宮の女御は、光源氏がかねがね予想した通り、帝のよいお守役になり、帝にも第一のお気に入りだった。すべてに嗜みが深く人柄なども理想的でいるのに、光源氏はこうした人はまたとはいないと、大切にお世話していた。
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