澪標 その二十八
雪や霙が降り乱れた荒れ模様のある日、光源氏は、六条の斎宮が、人少ないひっそりとした邸でどんなにわびしく、物思いに沈んでいることかと、察して、お見舞いの使いを差し向けた。
「今日の荒れた空模様を、どのようにご覧になっていらっしゃいますか」
降り乱れひまなき空に亡き人の
天翔るらむ宿ぞかなしき
と空色の紙の曇ったようなのに書いた。うら若い前斎宮の目を惹くようにと、心を込めて意匠を凝らし飾った手紙は、目にもまぶしいくらいだった。斎宮は、とても返事しづらい様子だったが、女房のだれそれが、
「代筆ではあまりにも失礼に当たります」
と、しつこくすすめるので、鈍色の紙の、とてもいい匂いに香をたきしめた優美なものに、墨の濃淡なども美しくまぎらわして、
消えがてにふるぞ悲しきかきくらし
わが身それとも思ほえぬ世に
遠慮がちな書きぶりは、とてもおっとりとしていて、筆跡は上手とは言えないが、愛らしく、上品だった。
光源氏は斎宮が伊勢に下向した頃から、やはりただではすまされない気持ちでいたのが、今ではいつも心にかけて、何とでも言い寄ることができるのだと思うが、例によって、また思い返して、
「それも可哀想だ。亡き六条御息所がひどく心配そうにあれほど気にして逝かれたのも、もっともなことだし、世間の人も、六条御息所と同じように自分のことを邪推しかねないことだから、ここは一つ、その予想の裏をかいて、清く美しくお世話してさし上げよう。帝が、今少し物事の道理がお分かりになる年頃になったなら、斎宮に入内していただこう。自分にはちょうど年頃の女の子もなくて、物足りなく寂しいので、このお方をお世話の対象としよう」
と考えるのだった。
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