澪標 その十八

 兵部卿の宮は、光源氏が須磨にいた間、心外な冷たい仕打ちをして、ただ世間の取り沙汰ばかりを気にしていた。光源氏は、それを不愉快にずっと思い続けていて、昔のようには、親しい付き合いをしない。世間の大方の人々には、だれんビショップも公平に思いやりがあったのに、兵部卿の宮のあたりにだけは、かえって冷淡な扱いをして、つらく当たることもあった。藤壺の宮は、そんな兄を気の毒にも、不本意なことにも思った。


 今、天下の政治は、もっぱら二つに分けられて、太政大臣とこの光源氏の心のままだ。


 元、頭の中将だった権中納言の姫君は、その年の八月に入内した。祖父君の太政大臣が、直接自身で忙しく世話を焼き、入内の儀式なども実に申し分なく行われた。


 兵部卿の宮の中の姫君も、入内させようと心づもりで大切に育てているという噂も高いのに、光源氏はその姫君が、他の人よりよくなるようにとも、気をつけてあげない。これは一体どういうつもりなのだろうか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る