賢木 その二十六
光源氏は天台六十巻という経典を読み、不審の箇所を学僧に改名させなどし、逗留している。雲林院では、
「日ごろのお祈りの功徳で、ありがたく貴い光明が現れたのだ。これで本尊の面目も立った」
などと、身分の低い法師たちまでが喜び合っている。
光源氏は静かに心を落ち着かせて、世の中のことを考え続けていると、都に帰ることも、何となく心が進まなかった。けれども、ただあの紫の上一人の身の上を案じるのが、仏道修行の妨げになるので、そう長く滞在できず、雲林院にも誦経のお布施を莫大にした。寺にいるものたちは皆、上下の僧たちや、そのあたりの里人にまで施物をさずけ、あらゆる功徳の限りを尽くしてから帰っていった。
見送ろうと、あちらこちらにも、口をもごもごさせている老人たちまで集まってきて、涙を流しながら、姿を拝している。喪中なので黒く装った車の内に、喪服の藤衣に身をやつしているので、姿はよく見えないけれど、隙間からチラッと拝した有様を、人々は世にまたとなく立派だと思うのだった。
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