紅葉賀 その十三

 灯火をともして紫の上と一緒に絵を見ていると、出かけるといっていたので、お供の人々が咳払いして



「雨が降りそうですよ」



 と言うと、紫の上はいつものように心細くなって、しおれている。絵も見かけたままにして、うつぶしているのがとても可愛らしく、髪がふさふさと美しく肩のあたりにこぼれかかるのを、光源氏がかきなでながら



「私がいないと恋しいと思うの」



 と言うと、紫の上が頷いた。



「私も一日も会わないととても苦しいのです。でもあなたの小さなうちは安心していられるので、まず、僻みっぽく拗ねて恨み言を言うほかの女の人のご機嫌を悪くすると厄介なので、当分はこうして出歩いているのですよ。あなたが大人になってからは、決して他所にいったりはしません。女の人から恨まれたくない、と思うのも、出来るだけ長生きして、あなたと二人で楽しく暮らしたいと思うからなのです」



 などとこまごまと話すと、紫の上はさすがに恥ずかしくなって、何とも答えることができなかった。そのまま光源氏の膝に寄りかかって眠ってしまったのが、とてもいじらしく、



「今夜は出かけないことにした」



 と言った。女房たちは座を立って、夕食の膳などをこちらに運んだ。光源氏は紫の上を起こして、



「行かないことにしましたよ」



 と言うと、紫の上は機嫌を直して起き上がった。


 一緒に食事をする。紫の上は少し箸をつけて、



「では、早く寝ましょう」



 と、まだ出かけるのではないか、と不安そうな様子なので、こんな可愛い人を見捨てては、たとえ死出の旅路でさえも出にくいだろう、と思うのだった。

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