第43回『トワイライト・フラワー』
使用お題→【トワイライト】【忘却の彼方】【三月といえば】【誕生日】
眠れぬ夜を過ごし、陽が昇り始める薄明りの中で君の事を思い出す。
朝、庭の草木に水を遣りながら、縁側で覚醒したばかりの気だるい余韻にぼんやりと浸る僕をチラリと見ると君は小さく笑った。
「だいぶ、芽が出てきたわよ」
君は花が好きだった。
それを知って、誕生日には毎年決まった花を贈った。
君は上手にドライフラワーにすると、生花と共に楽しんでいた。
草木に降り注ぐ水が、朝日をキラキラと反射させていた。
君の愛情を受け成長した緑は、やがて綺麗な花を咲かせるだろう。
色とりどりの花に囲まれ、薄化粧をした美しい君が微笑む。
想像しただけで僕は幸福な気分になった。
それは夢なんじゃないか、と思った。
花が咲いた。
待ちに待った花が咲いた。
色とりどりの大輪の花が咲いた。
その中で薄化粧をした君が眠っていた。
大きな血だまりの中で君は眠っていた。
瞳を大きく見開き、暮れゆく空を見詰めていた。
これは夢なんじゃないか、と思った。
壁に掛かった、埃まみれのドライフラワー。
ふと君の誕生日を祝わなければ、と思ったのだがいつだっただろうか。
三月……三月……三月のいつだっただろうか。
君の姿はあの日のまま、僕ばかりが年老いてゆく。
ああ、そもそも三月だっただろうか。
そしてあの花は何だっただろうか。
種類は、色は……。
もう遠い日の事。
僕にはもう、分からない。
そんな事を考えながら、今日もまた夜を迎える。
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