Episode24

ひどい悪夢を見ていたような気がする。


女社長が正気に戻った頃にはとっくに日は落ちていて、辺りは人気のない、真っ暗な路地裏だった。


ポケットからしきりに携帯が鳴っている。


この音のおかげで、女社長はぼんやりした状態から目が覚めたのだ。しかしまどろんでいる間、自分が何をしていたのか思い出せない。


そもそも、金沢と石井が社長室を出ていった後から記憶が曖昧だった。


……あの部屋で、何があったんだっけ。


頭の中に靄がかかっていて、そこから先は思考にブレーキがかかってしまっていた。無意識のうちに、脳が思い出すのを拒んでいるのかもしれない。


携帯の着信がうるさいので、渋々電話に出る。


相手は石井からだった。


「え……」


話された内容に、女社長はショックを受ける。


彼の相方の金沢が、何者かに刃物で刺されてしまったらしい。


意識が曖昧になっているうちに、大変なことが起きていた。金沢は、今は近くの病院で手当を受けている。


彼の様態が心配なので、女社長は慌てて病院へ向かうことにした。


「……分かった。すぐに行く」


通話を切ると、改めて自分の格好に気づく。


季節外れの薄いレインコート。頭には大きなフードを被っている。


ヘンテコな格好だ。


どうしてこんなファッションで外出しようとしたのか、自分でも見当がつかない。


気味が悪かったので、女社長は着ているレインコートをそばにあった回収ボックスの中へ捨てた。単純に、暑かったせいもある。


しかし、手に握っていた包丁は、なぜかそれが当然のことであるかのようにショルダーバッグへしまった。


携帯で病院の位置を特定してから、走り出す。


背後にはすでに刺し殺した男の死体がに二つ転がっていたが、なにしろ急いでいたので、女社長は気づかなかった。



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