Episode21
警察署で調べものを済ませ、次の日、路地裏喫茶は今日も通常営業だ。
客も相変わらずの入り具合で、注文は滅多にこない。暇な時間を使って、ユズキは厨房でカオリにレシピ料理を教えてもらっている。店主はいつも通りカウンター席にいて、大倉の姿もあった。
大倉は、いつもと少し様子が違う。
頼んだ飲み物に全く手がついていない。先程から、ドアの方へしきりに目をやったりして、落ち着かない感じだ。ため息までついている。
店主は見かねて、
「どうしたんだ、大倉。何かあったのか」
と声をかける。
気さくな彼が、こうして悩んだり落ち込んだりしているのは珍しい。
「……うちの娘のことだ」
大倉の娘――イチコのことだ。彼女は、大倉の一人娘である。
「イチコちゃんが、どうかしたのか」
大倉は頷く。
「最近、ますます反抗期らしい。もう、一週間も口を聞いてない」
イチコのことは、確かに店主も心配していた。反抗期かどうかはともかく、彼女自身が、何か厄介な事情を抱えてしまっている――ように思える。カオリも、彼女とはしばらく会えていないらしい。
「……見守ってやるしかないんじゃないか」
肝心の事情がわからない以上、店主にはこれくらいの慰めしかできない。
大倉はより一層深刻そうな顔になって、重い息を吐いた。
「見守ってやろうにも、家にいないんだよ」
「なんだって?」
耳を疑う。
「昨日から帰っていない。電話も、つながらないんだ」
「……大丈夫なのか?」
恐る恐る訊ねるが、大倉は首を横に振る。
「大丈夫なわがけないだろう。夜には警察に連絡するつもりだ」
家出した、ということなのだろうか。何か家にいることのできない事情があって、彼女は出ていったのかもしれない。何となくユズキの姿が重なる。
店主は数日前、イチコが店に顔を出して鈴木を探していたことを思い出す。
鈴木は最近、麻薬所持で捕まったばかりだ。嫌な予感がする。
「本当は、こんなことをする子じゃないんだ」
大倉が頭を抱える。
店内でいくら待っても、イチコがやってくる気配はない。
彼女は一体どこへ消えてしまったのか。せめて何事もなく、無事でいてほしいが。
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