第四章

Episode18

数日後、とある闇金融会社の社長室。


「金沢、石井」


いかにもキャリアウーマン風な女社長が、自分の長イスに腰掛けて、部下の二人を叱りつけている。


「逃げた少年はまだ見つからないの?」


「はい」


石井が素直に頷いた。


「いや、はいじゃないが」


「すみません。こちらも必死に探してはいるんですが……」


金沢が、面目ない、といった感じで頭を下げる。


女社長は呆れた様子で、


「それにしても、時間がかかりすぎている。足取りも分からないの?」


「目星はついています。ただ、見つからなくて……」


目星というのは、少年を見失った大通りのことだった。おそらく、あそこのどこかに、少年が転がり込んだか、隠れれいるのは間違いない。


最も、すでに別の場所へ逃げ去ってしまっていたら、それまでだが……。


「まったく」


女社長はあからさまに落胆した。


「相手はまだ子供よ?」


「兄貴、もう諦めたほうが……」


石井が弱音を吐く。


「バカ。社長の前で言うことじゃないだろ」


金沢が石井の頭を引っ叩く。


「その通りよ、石井」


女社長は目尻を上げて、ふてぶてしい態度で、睨む。


「あの夫妻にはかなりの金を貸したわ。貸したものは、しっかり返してもらわなくちゃいけない」


その通りです、と金沢と石井が相槌する。


借りた金には利子がつく。


それが闇金融からともなると、返す際の金額はもとの倍以上に跳ね上がる。


例え借り主の夫妻が死んでしまったとしても、誰かが、その金を返さなければならない。


「大丈夫です。少年は必ず俺たちが捕まえますよ」


「当たり前よ」


女社長は腕組みして、ふんと鼻を鳴らす。


「分かったら早く行きなさい。同じ場所を、もう一度重点的に探すように」


「了解です」


うやうやしくお辞儀をして、二人は部屋を出て行った。


はあ、と女社長はため息をつく。


ただでさえデスクワークで忙しい身に、行方不明の少年の案件は目の上の瘤だった。


厄介事は早急に解決しておかなければならない。それは、躍起にもなる。


――だけど、二人には少しきつく言い過ぎたかもしれない。


借金取りとはいえ、金沢も石井も大事な部下だ。苛ついていたからといって、八つ当たりするのは大人げない。


反省しよう、と胸中で呟く。


気を取り直して仕事に戻ろうとしたら、不意に、背後から気配を感じた。


「どうも、こんにちは」


声をかけられた。


女社長がぎょっとして椅子から飛び退くと、仕事机に、見知らぬ女が座っている。


信じられないことに、何もないところから突然現れたみたいだった。薄汚い、ボロボロの服を着ている。手に、何か持っている。


包丁だ。


――誰だ、こいつ?

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