Episode17
廃墟の中はろくに手入れもされず、荒れ放題だった。床は埃まみれになっていて、男たちの足跡がくっきり残されている。
足跡は階段の方へ続いていた。どうやら二階へ登ったらしい。
「先輩、足元気をつけて」
「ええ」
田中と婦警は、携帯電話の明かりを頼りに先へ進む。
二階へやってくると、短い廊下に出た。部屋の一室から、僅かに光が漏れている。あそこで男たちが屯しているのかもしれない。
足音を殺して、二人は部屋の中へ。
広い空間だ。
若い青年が三人、ランプのそばに寝そべっていびきを立てている。
「……完全に泥酔しているようですね」
田中が拍子抜けした顔になって言った。緊張してやや損した気分だ。
婦警も、やれやれ、といった調子で、
「ホームレスって割には、結構充実してそうな寝顔だけど」
と苦笑いして肩を落とす。
「ここを根城にしているのでしょうか」
「どうかしら……」
呟いて、婦警は周囲を明かりで照らした。窓際の暗がりに大量の植木鉢が置かれている。
植木鉢の植物はどれもすでに成長していて、深緑色の長い葉を伸ばしている。じょうろが、無造作に床に落ちている。
これは――、
「アサ……の一種ですかね」
田中が小声で言った。急にわなわなと震え始める。
アサ――大麻を生成する麻薬原料植物だ。この男たちは、誰も寄り付かない廃墟の中で、こっそり麻薬の草本を栽培していた……ということだろうか。
「先輩、どうしますか」
田中が慌てた様子で尋ねた。
婦警は焦らず、落ち着いて指示を出す。
「まずは署へ連絡しましょう。応援が来るまで、私たちはここで待機」
「わかりました」
田中が早速署の電話番号を発信する。一〇分後にはパトカーのサイレンが聞こえてくるだろう。
酔っ払いを注意するはずが、思わぬ展開になってしまった。
男たちは当分起きそうにない。酔っ払って植木鉢の様子を見に来たのが運の尽きだ。
溜息をこぼす。
「……とりあえず、手錠かけとけばいいか」
祭りから帰り、ユズキは店内にいる。
ユズキは 祭りのお土産に、店主とカオリにそれぞれお面を買った。特撮ヒーローとキツネのお面だ。二人が喜んでくれたので、ユズキも嬉しい。
今は日課の掃除をやっている。先程から外でパトカーのサイレンが行き交っているみたいだが、市街の祭りの後は大抵こんなものだろうと思う。気にしないように努める。
一階の掃除を終え、ユズキが二階のリビングへ戻ると、丁度電話が鳴った。
誰からだろう。相手は非通知だった。
「もしもし……」
電話に出る。
少し間を置いて、リビングに店主が入ってきた。
「誰からだい?」
店主が訊ねた。
「鈴木さんからです」
ユズキは答える。
鈴木? 今日はよく聞くな、と店主はひとりごちた。
「で、彼が何だって?」
ユズキはポカンとした表情のまま、受話器を握りしめている。
「たった今、捕まったそうです」
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