Episode6
ボロのアパートに数台のパトカーが止まっていた。
数人の警察官と鑑識が階段を忙しなく行ったり来たりしている。中で男女の死体が見つかったのだ。今朝は、まだ高級マンションで銃殺事件が起きたばかりだった。
アパートの一室に規制テープを貼って、二人の警察官が死体と対峙している。
新人の警察官の男と、上司の婦警だった。
「田中。もういい加減、慣れなさいよ」
田中と呼ばれた新人の男は、今しがたトイレで吐いてきたばかりだった。婦警に借りたハンカチでずっと口元を抑えている。
「す、すみません……」
二人は一瞥してから死体に近寄って、死因等を調べる。
男女の遺体の周りには、固形の錠剤がいくつか落ちていた。おまけに、返済の請求書まで置いてある。色々と、予想するのは容易だった。
「錠剤の過剰摂取による急性中毒ってとこかしら」
婦警が、やれやれ、といった調子で言った。
男女とも、口から泡を吹いて白目を剥いている。死因はそれで間違いなさそうだった。
「自殺、ですか」
婦警は頷いた。
「部屋を調べれば、もっとたんまり請求書が出てくるはずよ」
「はい」
自殺の理由はおおかた、借金が返せなくなったからからだろう。気の毒だ。
二手に分かれて部屋を調べる。
棚を漁っていると、田中は中からアルバムを見つけた。
アルバムには、男女の幸せそうな写真がたくさん貼られている。男の子の写真もあった。
二人には子供がいたのだ。
「どうしたの?」
田中の様子を見た婦警が声をかけた。
アルバムを覗き、眉をひそめる。
「子持ちだったのね」
「ええ。でも、息子さんはどこに?」
あら? とその時、婦警は何かに気づいたようだった。
「このページの写真だけ抜き取られている」
「誰かが持って行ったのでしょうか」
もちろん、紛失しただけの可能性もある。しかし、仮に持ち去られたとして、誰が写真を持って行く?
……なんだか、嫌な予感がした。
「気になるわね」
腕組みして、婦警が言った。
「連日の連続通り魔事件とは無関係だけど、ほっとけない……」
心配症なのは先輩の悪い癖だ、と田中はひとりごちる。
写真に写っていた男の子はまだ小学生のはずだ。死んでしまったとは考えたくない。どうにか生き延びていてくれればな、とは思う。
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