夢は何を魅せるか?
星うとか
第1話
坂下直哉は、目覚め前の気怠さを感じていた。それと同時に、数年ほどご無沙汰だった感覚に見舞われる。
ふかふかで、押せば跳ね返ってくるような感覚。十二月だというのに、ぬくぬくと温かい。あぁ、もう少しこのままでいたい。俺は寝返りを打った。
眠さに目を擦ると、黒い後頭部が見えた。
「ん? ……、うわっ!」
坂下は驚いて、離れようと思わず後ずさる。かと思うと急に背中に痛みが走り、坂下は天井を眺めていた。
坂下は立ち上がると、自分がベットから落ちたことがわかる。
辺りを見回すと、そこは坂下のテントではなくアパートの一室だった。
どういうことだ? 俺はなんでこんなところに……。昨日のことを思い出そうと、フケだらけの髪を掻く。すると、一人の女を思い出した。
その女は、坂下がテントの前にいると声をかけてきた。
長い黒髪が印象的で、人を馬鹿にしたように笑っていたのを覚えている。
「割のいいアルバイトがあるんです。やってみる気、ありません? 仕事内容は言えないんですけどね、一日で十五万稼げますよ」
もちろん坂下は断った。「割が良い」「でも詳細は言えない」と来れば、ろくな仕事じゃないのは目に見えている。
その旨を言うと、坂下の首に痛みが走って、気を失ってしまったのだ。
もしや、あそこで寝ているのがあの女だろうか? そう思い、恐る恐る近づいてみる。掛け布団に手をやり、勢いよく捲り上げた。
そこで坂下は息を飲み、目を見開いたまま固まってしまう。
寝ていた女は昨日の女とは違った。もっとずっと若かったし、何よりこの女は死んでいた。
カッと目を見開いて、その目は一点を見つめて動こうとしない。だらしなく口は開かれ、そして極めつけは、胸にナイフの柄らしきものが生えていた。
坂下は自分の鼓動が早くなるのを感じた。
そして最悪の事態を想定する。
このままでは自分が犯人にされてしまう。筋書きとしては、ホームレスの強盗が誤ってこの部屋の住人を刺殺した。こんな所だろう。
一刻もこの部屋から出よう。言うことを聞かない体に鞭を打って、玄関に向かう。すると、ドアに付箋が張ってあるのが見えた。
「犯人にされたくなければ、この番号に電話すること」
殴り書きでそう書かれた下に、数字が並んでいる。どうやら携帯の番号らしい。坂下がリビングを見回すと、テーブルに携帯が置いてあるのが見えた。ロックが掛っているが、電話をするのに支障はない。俺は付箋を見ながら番号を打ち込んだ。
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