学級閉鎖

彩原裕樹

流行と欠席人数

 その作戦はタイミングが重要だ。

 単に日本中でインフルエンザや感染性胃腸炎が流行ってるからといってしてはいけない。あくまで学校あるいは学年やクラスでの欠席者数を見極めなければならない。



「起立!」

ある高校の1年3組で朝礼が始まった。

「礼!」

『おはようございます』

「着席」


「はい、おはようございます」

担任が教室を見渡す。

「いないのは…、3人ですね。インフルなのでしばらくお休みです」


(3人…微妙だなあ)

桃井春香は教室の隅でほおづえをついてぼんやりと担任の話を聞いていた。

「インフルエンザが流行ってるみたいなので、みなさん体調に気をつけてください。テストも近いから欠席しないように」

(まあ、欠席はしないんだけどね)


朝礼後、教室中央の机に何人かの生徒が集まっていた。

「明日香、ほかのクラスはどんな感じ?」

「1組は5人休んでる。3人はインフル確定」

春香の問いに対し、他のクラスで聞いてきた藤咲明日香が答えている。

「残り2人は?」

「今日検査するってさ。2組は1人だけでただの風邪」

「そうか…」

そこに佐東大地がツッこむ。

「そんなに休みたいなら、仮病でも使って休めばいいじゃん。お腹痛いとか言っとけば休ませてくれるでしょ」

「それはだめ。皆勤賞がかかってるの!」


 毎年この高校では、一年間無遅刻無欠席の生徒には、皆勤賞として証書とちょっとした商品(たいていは文具)が送られている。ただし、学校保健法で定められた感染症にかかった場合に関しては、出席停止となり欠席日数には数えられない。それがほしいというわけではないが、成績が悪く元気だけがとりえの春香にとって、とっておきたいものであるし、閉鎖になれば休んでいる間に勉強もはかどるかもしれないとも考えていた。


 ちなみにこの高校では1クラス10人休んだら学級閉鎖、それが同じ学年で2クラス重なったら学年閉鎖、2つの学年が学年閉鎖になったら休校となる。いずれも期間は3日間だ。

 例えば、1年3組が学級閉鎖となり、次の日に1年2組が学級閉鎖となったら1年生は学年閉鎖となり、その日からまた3日間休みとなるので、1年3組は4日間、ほかのクラスは3日間の休みとなる。



さて、どうするか。

生徒たちは密かに、これから始める作戦について案を練っていた。










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