四の乱  野望のほころび

「ただいま…」

拓海は帰宅した。

しかし、返事はなかった。

「父さんも母さんも今日もいないのか…」

拓海は、水着を洗濯機の中に入れて、洗剤を投入して通常で回しだした。そして、冷蔵庫の中から母の作ってくれている作り置きのとんかつをレンジでチンして温める。

拓海の両親は病気で入院している姉の付き添いでまだ帰って来ていない。

「まあ、姉ちゃんの方が優秀だしな」

少しだけひねくれたように言う。

三歳上の姉の直子は、持病を持っており、小さな頃から入退院を繰り返している。そのため、拓海は一人で過ごすことが日常になっている。

(拓ちゃんへ、お帰りなさい。病院にお父さんと寄って来ます。ご飯温めてたべてね)

テーブルに置かれたゴーヤチャンプルーとそうめん、拓海はレンジに入れてチンした。

(まあ、姉ちゃんのことはいつもの事だし、もう、寂しいなんて…)

言葉が詰まった。

しかし、少しだけ目から冷たいものが頬を流れる。

無理もない。仲良しの博和や真緒といたずらをしたり、ケンカなどでトラブルを起こすがまだ十一歳の甘えたい盛りの少年なのだから…

真緒も両親が長期の海外出張で父方の祖父母やおじ夫婦が面倒をみてくれているが、それでも誕生日やクリスマスなどのイベントは一緒に過ごしたいとひそかに願っているが、叶わないことはわかっていた。

「パパは外務省の官僚で今はセネガルの学校や道路を整備する事業の視察に行っているから、ママと帰ってくるのは三ヶ月後か、その後もすぐに、韓国へ済州島のリゾート開発の視察で、そのままインドのニューデリーか」

誰もいない食卓で食事を取るが、やはり、この年で独りの夕飯はどんなに豪華なグルメバイキングが、自身の大好物があっても寂しく、味を感じない。

「あ、明日の調理実習で使う材料買って来ないと、明日は何をしようかな。まあ、美味しく食べれるから、真面目にしようかな」

そう言うと、食器を洗って近場にある業務用スーパーまで歩いていく。

すると見慣れた女性たちがいた。

「律子先生に巴先生、そして、恵先生…三人で何やっているんだ」


そお、親友を泣かせた最低な女子三人組だ。

(よし、こっそりあとをつけて仕返ししてやる。何なら、一生言う事聞いてくれるのスクープを取ってやる)

拓海は悪魔の笑みを浮かべて、あとを付けた。

だが…

彼は自分からさらなる渦中に飛び込んでしまったことを後悔するのであった。








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