異世界の王
@eita_gonoshiki
第1話
「……ねむ」
勉強が終わり、参考書やらノートやらを仕舞う。引き出しに乱雑に、本棚に。
広めの机に残った時計は、一時を告げる。
「ふゎぁー」と、長い欠伸を残す。
ベッドまで二歩。昨日に別れを言う。
「おやすみなさいっと」
暖かい。疲れがどっと押し寄せてくる。
「冬の羽毛布団は必須だな」
そんな言葉を残して、すぐに彼は深い眠りにつく。
夜空はいつもより多くの赤い星が躍っている。何かの模様のように。
この羽毛布団に戻れる日は来るのだろうか。
「そろそろかな」
少年の姿の者が言う。
「今回は長かったから暇されているだろうし」
山の上の開けたところに彼らはいた。
神父。それも珍しいセスタ教の。
セスタ教はセスタを唯一神とする、ヨーロッパを拠点にしている宗教。
人数は少ないが、噂では四千年続いていると言う。
また、新たな信者を嫌い、存在を知られたと知るや否や処刑すると言う集団だ。
科学を否定する彼らは、彼らが魔法と呼ぶ力で生きてきたと言われる。
そんな世界最恐の謎の宗教。
しかもここにいる十七人全員でセスタ教の全てが決まるレベル。
そのトップであるのがこの少年、ファスタだ。
「それにしても、なんでこんな子なんだろ」
手のひらには人の姿が浮かぶ。
足元には大きめの三重の円。その中をちょうど星のように線が繋ぐ。
まるで魔法陣のようだ。いや、もしかしたら本当に…。
「ファスタ様、時間です」
「分かってるよ、ザス。じゃあ、始めようか」
彼らは魔法陣を囲む。
それに手をかざすと、赤く光り始める。
「これで、ハスタ様に…」
「…ん……ふぁぁ…」
目が覚めた。
いや。まだ覚めていないのか。ここは夢らしい。
広い部屋だ。もはや部屋と言えるのかというくらい広い。ホールと言うべきか。
仰向けに倒れていても広さがわかるのは、天井の広さからだ。
体が重い。
動かない。
辛うじて頭が動く程度。
左を向く。
白い世界。
右を向く。
金髪の男。
「こんにちは〜」
優しそうな緑の瞳。後ろで結んだ長い金髪。イケメン。
二十代だろうか。
しゃがみ込み、こちらを覗き、満面の笑みで話かけてくる。
「はじめましてだね、ダイスケくん」
声が出ない。いや、口が動かない。
「ああ、説明が終わるまで待っててね。少し長くなるかもだけど」
彼が指を鳴らす。ダイスケの体が浮き、どこからか現れた椅子に座らせる。そして、自らも座る。
「僕はファリア。君を導く者だ」
ファリアはニコニコしながら話し続ける。高価そうな白い服。どこかの王のようだ。
いや、神か。
「だから、君は今日から王様になってもらう」
意味がわからない。
「国の名はエリド。王になるんだから当然、王政だね。今度ちょっと王が死んだことになるから大変なんだ」
「それで君を呼んだわけだ。少し危険かもしれないけど、まあ大丈夫でしょ」
……は?と、はてながつくような台詞をスラスラと言ってのける。
しかも笑顔。夢では最近会ったことが関連すると言うが、こんな男も、冒険に飢えてもいないダイスケはハテナを作る。
「最低限の助力はしてあげるから大丈夫だよ。なんてったって僕は神だからね」
ふふふ、と謎の笑い。
「いや、ごめん。人間なんて五百年ぶりくらいでね。あ、質問は受け付けないよ。あと、アイテムとかないから」
ファリアが指を鳴らす。
身体中に弱い電流のようなものが走った気がする。
動ける。
思わず、
「久しぶりに面白い夢が見れそうだ」
と言ってしまう。
少年の囁きはファリアと言う名の老人の笑みに迎えられる。
ファリアの向こうを見ると、いつの間にかそれらしい白い扉がある。
「あ、あんまり長くならなかったね」
彼の背中に翼が見えた気がした。
「さあ行こうか、新しい世界へ」
ファリアが微笑みと共に手を伸ばしてくる。
ダイスケは迷うことなく手を伸ばした。
そして後に思う。
あのとき手を取らなかったら、どうなっていただろう、と。
異世界の王 @eita_gonoshiki
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