ストロイェ
zaq2
序
1(1/4)
冬も近づき冷たくも閑散とした空気が張り詰めた平野…誰しもがそんな常套句を挙げてしまいそうな風景の中に、その形容される内容からは想定もできない程の、その場にそぐわない金属同士がぶつかる音が鳴り響いていた。
その響きは、決して軽いものではなく、ぶつかり、擦れ合う、そんな金属が奏でる音にしては偏った響きを振動と共に周囲へと伝えていた──
相対しているモノと対峙をしては打合い、打合いをしては対峙をし、幾時分が過ぎたのかはもう解らない、何度打ち合ったかすら数えるのが嫌になる程、幾度ともなく己が操る剣と相手の剣とがぶつかりあっていた。
少なくとも、相手をし始めてから少なくとも半日以上は打ち合っているはずだが、相手の体力が減っている気配はまったく見受けられない。
いや、感じられないという方が正しいのだろう。
なにしろ、相手にしているのはこの世に存在するモノとは到底思えない異形な恰好をしていたためだ。
その容態は人型ではあるのだが、その表面は黒く、そしてその黒い表面に白金色の帯の様な模様が五本、それらがその黒い体を取り巻く様な模様をしており、時折、薄暗く光るように浮かび上がっていた。
そして、その右手にあたる部分にはその人型と同等の大きさの大剣(と形容するのが正しいかは解らないが)という大物の得物らしき物をもち、それを軽々と操っているのだ。
その黒き異形は、人よりも大きな姿にもかかわらわらず、何言わぬ恰好と思われる自然体から剣を振り下ろし、薙ぎ、払ってくる。
こちらも直接は受けまいと繰り出される剣の軌道を変えるべく、受け流す動作を、と
この騎乗し、操っている
なぜなら、その黒き異形の剣戟はあまりにも鋭く重く、それらを受け流す操作を行うにしても、かなりの集中を要し、その集中を途切れさせる事は許されないという状況が、己の精神を徐々に削っているのであった。
それほどまでに重い一撃は、生身の体ではすぐに物言わぬ躯になっているのは確実であろうと誰しもが簡単に想像できる事でもあろう。
しかし、いかに
しかし、だからといって、その集中を失えばこちらの状況が好転する事は決してないのは解りきっていた。
私は疲弊しようとも意識を保ち集中し続けなければならなかった。
そのような状況など相手にとってはどうでもよいことだろう、黒き異形は私のその心情を察する事もなく、立て続けに大剣を突き出し、返す刃でまた重い一撃で薙いでくる。
先ほどから放たれている黒い異形の重い剣戟を、こちらの兵装では直接受ける訳にはいかない。
まともに受け続けていれば、すぐにでもその兵装が悲鳴を上げて砕けてしまうほどでもあるからだ。
故に直撃を避けるために当たりをずらし、払う動作を延々と繰り出し、相手が戻す動作に一撃をいれる。
その行為はあくまでも牽制にしかならず、遅々として相手をどうこう出来る内容ではない事も解りきっている事でもある。
しかし、それでも行わないよりも行う方が、少しでも延命に繋がるという事実が、皮肉にも感じてしまう程の現実だった。
しかし、終わりというモノは唐突にやってくるものである。
今まで幾度と打ち合い、受け流す為に使用していた主兵装となる
すぐさま副兵装となる短剣へと換装を行い構えを取り直そうとするが、そんな隙を見逃す相手である訳でもなく、黒き異形のその白金の模様が、まるで喜びを表す笑みかの如くイビツに歪ませながら迫ってきたのだ。
一瞬、戸惑ってしまった。
だが、これは直撃する"軌跡にはなら無い"と認識する。
それは、この突進を幾度となく"観ていた"からにすぎない。そう、"今まで観ていた"から、黒い異形の行動は、何故かこちらの躱す挙動により、次なる手を誘導できるという事に気が付いてもいた。
つまりは、こちらの挙動によって相手の動作が、"ある程度誘導できる"と解ってもいたのである。
しかし、"誘導できる"と言うだけなら言葉としてどれほど簡単な物であると聞こえるだろう。
誘導が出来たとしても「あの重い一撃」を防ぐのが限界という、土台というべきその力の根底部分の差が払拭できる程、生半可なものでもなかったのが、先の悲鳴をあげた剣が証明している。
そして、それらを凌ぎ切っていたのは、先ほどまでの主となる兵装があっての事でもあったのだ。
今、その主兵装となるべき得物は存在しない。
それは、これ以上戦闘が長引く事は、確実にこちらが不利になる結果を案に提示しているだけに過ぎない。
ならば、しかけるとすれば、今、この時しかない。と、
「すまん、無理をさせるが、これで
私の言葉に対しての返答なのか、操作を切り替えた時の反応なのか、
その返事を聞き、私は少し笑っていたのだろうか。
長年つれだっていた相棒ともいえるこの
(ああ、その回答があった事で十分だ。いや、十二分だ。)
腹は・・・決まった。
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設定
〇
魔動炉と呼ばれる動力原を基に駆動する、全長4~5m程度の人型兵装機械の総称。
大まかに、古代機と現代機の二つに分類される。
古代機の方も現存機として数万機以上も確認されているため、
それほど珍しいものでもないが、高額な機体群として取引されている。
〇
古代の時代に作られたと言われる|兵装機械(ストロイェ)。
自己修復機能を有し、召喚器と言われる専用具による搬送方法にまで昇華されている。
それぞれの機体には独自の兵装が固定化されており、容易に変更を行う事ができない。
これは、召喚器への紐付けの際に、格納情報として兵装も固定化される為である。
召喚後に手持ち兵装として使用する事は可能であるが、一緒に格納する事は不可能である。
〇
現代において製造されている|兵装機械(ストロイェ)。
自己修復機能を持たず、召喚部分が失伝されており輸送・搬送等はキャリアか自機の能力に依存される。
自己修復能力による修繕や召喚器における輸送等は頼れないが、
逆に言えば状況に合わせた兵装に換装できるという点が優れているともいえる。
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