第九話
「えーと、これはどういうこと?」
現在、私は仕事帰りに里恵と香澄さんの家にいる。なぜ、二人の家に来ているかという、本日月曜日は香澄さんのバーの定休日。香澄さんから『今度の月曜日、家に来なさい』と連絡が来て、早々香澄さんから「どういうことって、見ての通り、これから食事するのよ」と言われた。
(来てと言われて、来て早々、これから食事するなんて聞いていませんよ)
里恵が言うには、香澄さんが『たまには誰かを家に呼んで食事するのも良いわ』と言った事がきっかけと言っていた。前の芋煮会もそうだが、いつも思い付きで動くことが多いので、苦労する。でも全てみんなを楽しませてくれるので、むしろ参加しない方がおかしい。
里恵と香澄さんが住んでいる家は、一戸建てで二人向けの大きさの家で、バーから歩いて10分の距離にある。そして、現在、三人で食事の準備をしている。里恵は温野菜を、私と香澄さんは今日のメインメニューである『たこ焼き』の生地を作っている。
「でも、なんでタコ焼きにしたのですか」
私は二人に疑問を投げかけ、里恵が応えた。
「それがですね。この間、私が福引で当てたのです。それでたこ焼きやるなら、美幸さんも呼ぼうという話になったのです。私、たこ焼き作るのは初めてです」
(そういう事か。)
「温野菜の方は出来ましたよ」
温野菜の完成と同時に私たちの方もできた。温野菜はじゃがいもやブロッコリー、カリフラワーなど六種類の野菜を使っており、これらは香澄さんの知り合いの農家が送ってきた。たこ焼きの材料は私が香澄さんの家に着く前に用意されていた。具はタコと焼き鳥、キムチ、チーズ。
「美幸、あなた作れるの?」
「たこ焼きなら後輩と作った事がありますから、大丈夫です」
私は、里恵にカッコいいところを見せようと自信満々の態度をしていた。私はたこ焼き器に油を敷き、生地を流し、用意した具材を均等に入れた。そして、生地が固まり、周りの生地を切り分け次々と竹串でひっくり返し形を整えた。
「コツを掴めば、できますよ」
「私にもできますかね」
「できるわ。生地と鉄板を剥がすように竹串を動かし、竹串で生地を刺して押すとひっくり返るよ」
里恵は私のやったように、生地を返そうとしたが、中々にうまく引っくり返らない。
「里恵、こうやるの」
私は里恵の手に自分の手を置いて、生地のひっくり返し方を教えた。里恵はもう一度やったとおりに、生地をひっくり返した。さっきよりは、上手に生地をひっくり返した。
「できました♪」
「良かったね、里恵」
私は里恵を褒め、香澄さんはその一部始終を笑顔で見ていた。そして、私は、はみ出た生地を中に入れ、何度か回転させ、焼き色がついたものから取り分けた。香澄さんは冷蔵庫から缶ビールを何本か取り出し、私と里恵の前にあるグラスに注ぎ、乾杯した。皿に乗ったたこ焼きにソースと青のり、鰹節を乗せ、最初に里恵が口に運んだ。
「あつつっ」
里恵は一口で食べたため、大慌てでグラスのビールを飲んだ。
「うふふっ、里恵、うっかりさんだね。そうよね、美幸」
私と香澄さんは里恵の事で笑った。香澄さんの恵美はいつもお店で見せる笑みとは違い、自然で温かみのある笑み。それは親子が見せる笑みだった。里恵は大人っぽいところもあるが、時々子供っぽいところもあるため、私や香澄さん、常連を和ませてくれる。無邪気で素直なところがみんなに気に入られており私も気に入っている。
「うぅぅ、やけどするかと思いました・・・」
「あなたは昔からそうよね。どこかしら、抜けているというか、やんちゃというか」
「昔から香澄さんにも、ご迷惑をお掛けしたこともありましたね」
(そうなのですか、香澄さん)
里恵の意外な一面があった事に驚いた。
「ちょっと目を放した隙にどこかに行ってしまうから、親戚一同、手を焼いたわ」
「そうですね」
里恵の話だと、里恵が小学六年生の時に香澄さんと親戚が里恵と里恵の両親がいる実家にお盆帰省した際に実家の近くの山で親戚の子供と道に迷い深夜になって発見されたそうだ。子どもによくある事だし、私もあった。
(父親によく怒られたな~)
「里恵にそんな事あったのだ~。今は大人しいよね」
「私が親戚の子を無理やり連れていったのです。あれ以来、他人に迷惑を掛けないように生きることにしたのです」
里恵はやんちゃなところは今でもあるそうで、人思いでやさしく、決して無茶な事はしない子。そして、里恵が親戚の子と一緒に山で遭難した事は香澄さんにとって不思議な事だったそうだ。それは里恵が生まれた頃から交流ある香澄さんが自信を持って言える事。
その後、香澄さんや私の幼い頃や初恋の話をした。特に香澄さんの話で盛り上がった。香澄さんは幼い頃から男勝りな性格で、地元を仕切る大将にまでだったそうだ。しかも、中学や高校では問題とは行かないが先生を困らせて、大学で初恋の人ができて大人しくなったそうだ。私も香澄さんからの追求で口を割ってしまったが、私の初恋は中学の頃だった。告白をしたものの振られてしまい、終わったが、今思えば懐かしい思い出だ。女性同士の話だから、共感できるから盛り上がりが治まらなく、深夜まで続いた。里恵の幼い頃の事が分かり、里恵についてより知ることができた。
時間も遅く、私は香澄さんの家に泊まることにして、朝に自身のアパートに戻り、身支度をして職場に行った。
最近、香澄さんの家に招かれる事が多い。今日のように、楽しい時間を過ごすが、それは家族と過ごす楽しい時間と同じに感じる。
(両親や妹はこの世にいないけど、私の事を家族のように温かくしてくれる人がいる自分は幸せだな。この楽しい日々がいつまでも続きますように)
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