第三話 父さんな、前途多難なんだ
体長七メートルほどの虎のような外見をしたモンスターが、勇者達を睨みつけている。
虎はサーベルタイガーのような長い牙が口から生え、背にはステゴサウルスのようなひし形の板状のブレードが付属し、表皮が白と黒のマダラ模様だった。
これこそ、魔王四天王が一人、風の白虎!
背にあるブレードは体から外す事ができ、白虎の意思で自由自在に動かすことができるのだ!
風を操る白き虎――白虎。さすが四天王という風格である。
対する勇者達であるが、まず勇者。彼女は黒い髪を肩ほどで切り揃えた十六歳くらいの黒い目をした可愛らしい女の子。
勇者以外にメンバーは三人いて、少し無鉄砲な両手剣を構えた戦士の少年。斜に構えた長髪の魔法使いの青年、勇者より少し年上に見える金髪をお団子にした軽装の少女――職業はスカウトという罠を外したり、身軽さを活かした特技をいくつか持っている。
白虎は思うのだ。何故こんな少年少女に魔王討伐を任せるのかと。今回は年端もいかない少女じゃないか!
もっと禿げ上がった屈強なベテランのオッサンを呼び、熟練した加齢臭漂うパーティの方が成功率が格段に上がるだろうに……
「お前が四天王の一人、風の白虎だな!」
戦士風の少年が威勢良く白虎に言い放つ。
おお、息子よ。立派になって……少年の姿をみた白虎は息子の仕事姿を間近で見て、少しトリップしている。
白虎は少年と目が合い、彼に顎で早くと指示された。
「そ、そうだ。俺も仕事だ」と白虎はようやく本来の目的を思い出し、少年に応じる。
「生意気な小僧よ。我こそは風の白虎! 勇者なぞ、物の数ではないわー!」
「なんだと! テメエ!」
白虎の挑発へ剣を握りしめ踊りかかる少年に、悲鳴をあげる勇者ちゃん。
「リオ! 一人で行ったら危険だよ!」
勇者ちゃんの忠告も聞かず、リオ少年はそのまま白虎に斬りかかるが、見えない何かに弾き飛ばされる。
「リオ!」
勇者パーティの三人の声が重なる。
「はははは! 我が風の味はいかがかな?」
白虎は得意げに勇者パーティへ鼻を鳴らす。
「クッ!今のは風か!」
悔しそうな顔でリオがヨロヨロと立ち上がるが、地面への激突の瞬間、他の勇者パーティのメンバーに気が付かれないよう、白虎が風のクッションで覆ったため、彼にダメージは一切無い。ちなみに、「勇者養成所」のルール違反――過剰な保護に抵触する。
「貴様!」
倒れたリオに激昂した勇者ちゃんが、白虎に向けて走るも風の力で押し戻されてしまう。
「きゃあ」
ついに風に耐えられなくなった勇者ちゃんが尻餅をついてしまった。
よ、弱すぎる……白虎は勇者の余りの弱さに開いた口が塞がらなかった……
ほ、他のメンバーはどうなんだ?
スカウトの少女が白虎に投げナイフを飛ばすも、スピードが足らなさすぎる。
様子を見守っていたキザな魔法使いが、フッとニヒルに笑みを浮かべ、髪をかきあげる。
「喰らえ! アイス!」
白虎に向けて、氷のツララが飛翔するも、彼の前足でベシッと弾き飛ばされる。
ま、まさか、未だに初級魔法しか使えんのか……こ、これはあかん。白虎はそう独白し、髪の毛が数本抜けた気がした。
ここで息子が負傷してドラマチックに盛り上げ、勇者達が心身共にパワーアップする予定だった。負傷により息子は退場、お役御免となるはずだったのだが、彼らが余りに弱過ぎ、ここで白虎を倒すとこの先彼らは詰んでしまう。まだ彼らには息子の力が必要だ……
ど、どうしたものか……白虎は思案の結果。
「悔しければ鍛え直して、我に挑戦してくるがいい。言っておくが……我は四天王最弱……」
得意の決めセリフ「四天王最弱」をとりあえず組み込んだものの、白虎には虚しさしか残らなかった。
◇◇◇◇◇
この結果を受けて、ジャンロベールはまたも所長に呼び出しを受けていた。
「ビビカンテ君。何故だか分かるかね?」
ジャンロベールは禿げ上がった頭からダラダラ汗を流しながら、所長に言い訳を始める。
「所長、俺はビビカンテでは。ま、まあそれはともかく……まさかあれほどとは」
「君が甘やかすからだよ。勇者達を短期間で鍛え直さないとダメなことは分かるかね?」
所長の言う通り、本来なら白虎を倒せるくらいの実力になっていたはずなのだが、ジャンロベールの間引きで甘やかされた勇者達はほとんど成長してなかった。
「わ、分かりました。何とかします」
◇◇◇◇◇
「おじさんは誰? リオはどこなの?」
勇者ちゃんがジャンロベールの禿げ上がった頭に呆れた顔で問うてきた。
「お、俺、リオ」
ダラダラ汗を流しながらジャンロベールは勇者ちゃんに自己紹介する。俺は勇者パーティのリオだと。
「リオくんを何処にやったの?」
スカウトの少女がジャンロベールに詰め寄る。彼女はジャンロベールから漂う刺激臭に少し顔をしかめた。
「何を言ってるんだ。俺、リオ」
「もう、おじさんがリオでいいから。わたしの知ってるリオは何処なのかな?」
腰に手を当て勇者ちゃんがにじり寄るが、彼女も顔をしかめる。もちろん加齢臭でだ。
ダメだ。勇者パーティへリオの代わりに入り込んで鍛える作戦は無理そうだ。ジャンロベールは自分の失敗を悟る。息子さえ居なければ、ガンガン鍛えることに躊躇は無い。
息子が居るからこそ甘々になるのだと、彼は自分でようやく気がついたようだった。遅過ぎるが……
「だから無理があるって!」
奥から戦士リオこと息子ダスティが出てくる。
「な、何故ここに?」
ジャンロベールは焦ったように息子を見る。
「話があるからと呼び出して居なかったから、もしかしてと思って来たんだよ! 幾ら何でも父さんと俺を勇者達は間違えないだろ!」
「い、いや。俺だってまだ若いし」
「その頭からして無理だろ!」
リオがジャンロベールの禿げ上がった頭を指差すと、思わずスカウトの少女が笑い転げる。
勇者ちゃんと魔法使いも苦笑している。
「おじさんは、君たちに依頼があって来たのだ! 試練の塔に素晴らしい武器が眠っていると聞いてね。君たちに伝えに来たんだよ」
ジャンロベールはとっさに思いついた事をのたまう。ちなみに、試練の塔と言うものは存在なぞしない。
今即興で彼が勝手に言ったに過ぎなかった!
父の発言に息子は目を向き、父の肩を掴み、勇者達に聞こえぬよう囁く。
「ちょっと、父さん。大丈夫なのか?」
「何とかする。試練の塔は一人ずつ挑んで貰う。これで鍛える」
「なるほど。それならいけそうか?」
息子は満足したように、父から離れ、試練の塔の設定を勇者達に話す。
彼らはリオの言う事なら信じたようだ。
全くチョロい奴らだぜ。ジャンロベールは心の中で呟いた。
どうにか勇者達を鍛える目処がついたものの、問題は塔をどうやって準備するかだ!
どっかに塔があったかなー。ジャンロベールは遠い目で空を眺めたのだった。
仕方がないので「勇者養成所」スタッフを集めて、ベニヤ板と丸太でそれらしきものを作成したはいいが、グラグラして今にも崩れそうだ……
果たしてどうなる? 試練の塔?
確認の為ジャンロベールが二階に踏み込んだ時、床が抜けたのはここだけの秘密にしておこう。
「父さん、これ無理じゃないかな?」
「塔じゃなくて、森ってことにしよう。そうしよう」
冷や汗を流しながら、父は息子に勇者達へ伝えるよう頼み込んだのであった。
息子はやれやれと肩を竦めながらも勇者達の元へと戻って行く……前途多難な魔王討伐になることは誰の目からも明らかだった……
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