第10話タポイハヌの実のスープ
普通、タポイハヌの実は煎って食べる。
タポイハヌの実を沢山無駄にしながら、どうにか偶然出来たらしい、土色の何か。
それを湯に溶かし、干した小魚と野菜の入っているらしいスープをヤヅァムに差し出され、スェマナはうっかり受け取ってしまった。
「……どうかな?」
お菓子じゃなかったの?とスェマナは問いたい。
ロアの豆で、ヤヅァムが変わったお菓子を作ってくれたから、今度もお菓子に変わるのだと期待していた。だからスェマナは少しがっかりしてしまった。あんなに沢山のタポイハヌの葉を刈って、干して、とにかく量が多かったから、本当に大変だったのだ。
それに、ヤヅァムが言うには『失敗作』が多かった。しまいには基本的におおらかなキュイールが、嫌味のような、からかいのような事を言いだしたくらいだ。
それにしても、変わった匂いのするスープだと、器の中を見つめる。
タポイハヌの実を煎ったのとは全く違う匂いがした。
おそるおそる口に含むと、いろいろな香りが広がる。好きだとは思わないが、ほっとする。
「……美味しい?」
ヤヅァムがおそるおそる、スェマナの顔色を伺ってくる。スェマナは台所を見渡した。ほんの少し調整すればきっと美味しくなる筈だ。スェマナは器に調味料をいくつか足して、ヤヅァムに返す。
「こっちの味の方が、みんな、食べてくれると思う」
スェマナに返されたスープを飲んだヤヅァムは、頭を抱えていた。
「美味しいけど、もはやこれは味噌汁じゃない……」
ミソシルとはなんだろう?この味なら、最近城に行くことが多いキュイールや、ほとんど領主の代官と言ってもさし差し支えなさそうなハンキレンダにも試食してもらえると思ったのに。
なぜ、ヤヅァムは頭を抱えてしまったのだろう。
わからないから放っておくことにして、スェマナはヤヅァムが使った材料と、自分が使った材料を台に並べてみる。
上手く工夫すれば、これは戦いが始まったときの食事に使えないだろうか?出来れば、これでお菓子にはならないものだろうか?
「あ、スェマナさん、ここにいらしたんですか」
声がしたのは戸口の所で、そこには若い、軽装の男が立っていた。確か模擬戦闘の時にいた人だ、とスェマナは思ったが、名前がわからない。なので何も言わず、なんでしょう?という意味合いで微笑むだけにした。
「自分はオリギト、騎士です。キュイール様の命令で、スェマナさんと補給を担当することになりました」
スェマナに向かってピシッと姿勢を正す姿は比較的好感が持てそうだ。
キュイールの部下なのだから、きちんとした人なのだろう。そう、スェマナは考えてみる事にした。
「オリギト様、キュイール様にお部屋を用意してもらったけど、どこかわかりますか?」
「はい、わかります」
オリギトは多分、スェマナよりも歳上の貴族出身者だろうに。
あまりにオリギトが折り目正しい態度をするので、平民である自分の方が、立場が上になったような錯覚をしてしまいそうだ。
「では、今日はその部屋に、オリギト様が必要だと思う資料を運んでおいてください」
「わかりました!」
くるりと訓練中さながらに踵を返すオリギトの様子に、スェマナはヤヅァムと顔を見合わせる。スェマナの方が立場が上のように振る舞ったオリギトの態度に違和感しか覚えない。
「ハンキレンダ様に聞いてみよう」
ヤヅァムが出来立てのスープと、スェマナが味を調整したスープの二種をワゴンに載せていた。
「これ、味見してもらおう、聞きに行くついでに」
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