第3話 逃げる
-16:10- 校門前
「あかりちゃーん!一緒に帰ろー!」
後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえ振り返るとひーちゃんがいた。
あかり「ひーちゃん!いいよ!部活終ったの?」
ひなこ「うん、学祭も終わったし、今は自由に活動してるって感じかな」
ひーちゃんは美術部で部長をしている。最初聞いたときは驚いたが、おっとりしているところもあるがちゃんとしっかりもしている。先輩もそれがわかっててひーちゃんに任せたんじゃないかと私は思う。
ひなこ「あれ?でもあかりちゃん部活なにもやってないのに、この時間帯までいるの珍しいね」
あかり「あー、クラスの男子と話してたら遅くなっちゃったんだ」
ひなこ「え!?あかりちゃんそんなに仲のいい男子いたっけ!?」
彼女は目を丸くしながら私に聞いてくる。
それは無理もない。私は今まで彼氏以外の男子とはそれほど関わっていなかったからだ。
あかり「別に仲がいいわけじゃないよ。昼休みに話があるって言われたからそれで残ってたんだ」
ひなこ「そうだったんだ。あ、もしかしてゆうかちゃんが言ってた男子かなー?」
あかり「え、ゆうかなんか言ってたの?」
ひなこ「帰りのHR終わった後に教室出たらちょうどゆうかちゃんと会って、なんかあかりちゃんが委員長とどうのこうの言われて…。早口だったから何言ってるかよくわからなかったけどね」
あかり「そっか」
ひなこ「それでその委員長って人となにかあったの?」
あかり「えっ」
ひなこ「ずっとあかりちゃん浮かない顔してるから、何か言われたのかなって思って」
(そんなに顔に出てたかな…)
今はあまり触れられたくない事柄を触れられ私は先ほどの教室のことを思い出し、ため息をつく。
あかり「告白、されたんだ…」
ひなこ「え!?」
ひーちゃんは歩いている足をとめ、私のほうを見ながら固まる。
私も告白されたときそうなったなー。と考えながら話をすすめる。
あかり「1年の時から好きだったんだって。でも、私、委員長とそんなに話したことないし、名前を知ったのも告白された時だったから」
ひなこ「それで返事はどうしたの?」
あかり「断ったよ。昨日の今日だもん。まだ整理もできてないし、友達からって言われたけど私はもう恋をしないって決めてるから好きになることはないよって言った」
私の言葉を聞いたひーちゃんが「そっか…」と呟き悲しそうな顔をしていた。
あかり「なんでひーちゃんそんな悲しそうな顔してるの?」
私はつい、思っていることを聞いてしまった。
ひーちゃんはゆっくりと口を開いた。
ひなこ「私は恋して、幸せそうにしてるあかりちゃんをみてるととても嬉しかったんだ。すごく楽しそうで、私まで幸せって思うくらい。でも…、あかりちゃんを幸せにしていた恋は、あかりちゃんにもう恋をしたくないと思わせるぐらい、辛いものに変わったんだなって思ったら悲しくて…」
彼女はとても優しい。こんな風に私のために悲しんでもくれる。
そんな友達がいるだけでいい。あとは何もいらないと思ってしまう。
あかり「ひーちゃん、ありがとね。私はひーちゃんやゆうか、つばさがいるだけで幸せだよ!」
ひなこ「あかりちゃーん!」
ひーちゃんは私の名前を呼びながら、いつもゆうかがつばさに抱きつくように抱きついてきた。珍しいなと思うけど、たまにはゆうかのように抱きつくのもいいなと思ってします。
-16:30- 帰宅
途中でひーちゃんと別れ、私は家に着く。
あかり「ただいま」
私だけの声が響く。そういえば今日はお父さんもお母さんも仕事で遅いと朝言ってたのを思いだし、今日の夕食の献立を考えながら冷蔵庫を開ける。
あかり「カレーかな」
とりあえず2階の自分の部屋にいき、制服からルームウェアに着替える。
それから1階に降りてお風呂を沸かし、すぐに夕飯を作る。
作っている途中に携帯が鳴る。
みると4人のチャットルームにつばさからメッセージが送られた。
チャットルーム
つばさ:来週クリスマスだけど予定なんかあるー?クリパしない?
そういえば来週はクリスマスだった。
昨日今日と、いろいろありすぎてすっかり忘れていた。彼氏と付き合っていれば、きっとその日は一緒に過ごしてたのかな…。つい考えてしまう。
でももう終わった話だ。クリぼっちも寂しいし、私はつばさの誘いを受けることにした。
チャットルーム
あかり:やりたい!
ひなこ:私もやりたいな!
ゆうか:私もー!
つばさ:イヴかクリスマスどっちにする?
ゆうか:イヴって確か終業式じゃん!次の日学校休みだし、お泊まり会も兼ねてやろうよ!!
つばさ:それいいかも。でも誰の家にする?家は狭いからきついかも。
ひなこ:うちもちょっと…。
「そういえば」と思い私はカレンダーをみる。イヴとクリスマスは両親は確か旅行に行く予定だった。結婚記念日がイヴなので、いつもクリスマスは旅行と決まっていた。でも、中学生になってからはせっかくだから2人で行ってきなといい、それからずっとクリスマスは家で1人だった。
チャットルーム
あかり:うちなら平気だよ。親は旅行いくし、私1人だから。
つばさ:ほんと?じゃああかりの家でいいかな?
ゆうか:賛成!
ひなこ:私も!
つばさ:じゃあ終業式終わったあと、各自、家に帰り準備してあかりの家に集合!
ゆうか:了解!
ひなこ:はーい
こうしてクリスマスイヴとクリスマスにクリパ兼お泊まり会をすることになった。
(楽しみだな!)
昨日のことがなかったかのように、テンションがあがったが、なおとくんからの告白を思いだしあがったテンションがまたさがりそうになる。
(私のどこがいいんだろ)
心の中でそんな事を思いながら、私は夕食作りを再開した。
12月24日 クリスマスイヴ
その日は朝からすごく寒かった。
終業式のため体育館にむかうが、いつもよりとても寒くて凍えていた。
教室に戻ると太陽の光により、体育館よりは暖かった。そのまま先生の話が終わるとそのままHRになった。今日は午前中に学校は終わり、午後からは私の家でゆうか達とクリパ兼お泊まり会をやる。
それが今日まで楽しみで仕方なかった。彼に名前を呼ばれるまでは…。
「あかりさん」
私の名前を呼んだのは、クラスで学級委員をしている田村なおとくんだった。先日の告白から私は避けていたため、あれから話していなかった。
隣の席をみてゆうかに助けを求めようとしたが、ゆうかは教室の外でつばさとひーちゃんと話していた。
(タイミング悪いよ…、ゆうか…)
心の中でため息をつく。
あかり「ど、どうしたの?なおとくん」
なおと「なんかあれから避けられてる気がしたから…。このまま冬休み入ると、休み明け話しづらいからさ」
聞かれたくない質問だったので逃げようと、またゆうかに助けを求め、廊下をみるがつばさに抱きついていて、私のことは全然気にしていない様子だった。
(これは逃げられないかな)
正直に話そうと思い、彼に話そうとした時彼の名前が呼ばれた。
「なおと」
彼の名前を呼んだのは私の後ろの席の木村しんじくんだった。
しんじ「帰ろうぜ」
なおと「ああ、そうだね」
しんじ「てか、白井となおとが話してるとか珍しい」
しんじくんは不思議そうな顔で私達をみた。
あかり「たまたまだよ。じゃあ私帰るね。ばいばい」
しんじ「おお、白井。良いお年を」
なおと「しんじ、今日イヴだからまだそれは早いんじゃない?」
しんじ「あ、そうか。じゃあメリークリスマス」
あかり「ふふん、面白いねしんじくん。メリークリスマス」
私はしんじくんに挨拶をして、教室をでた。
すると、ゆうか達が私に気づき4人で帰る。
昇降口をでて歩いている途中、なおとくんが気になり教室に目を向ける。
結局逃げてしまった。でも、私の気持ちは彼に応えられないからそれでいい。きっといつか彼も私のことなど嫌いになってしまう。そう私は思っていた。
教室
しんじ「白井に告ったってまじ?」
しんじが唐突に質問してきて、僕は飲んでいたお茶を吹きそうになる。
なおと「は?それ誰から聞いたんだよ?」
しんじ「あ、まじなんだ。かずきから聞いた。この前教室でお前らが話してるところみたんだとよ」
清水かずきは僕達の隣のクラスで、僕と同じく学級委員をしている。学校中からイケメンと言われてかなりモテて、おまけに勉強もできるからよく告白されてるのをみかける。
でも、まさか僕が見られる側になるとは…。心の中でため息をつく。
なおと「かずきにたくみには言うなって言っておいて」
「え?俺が何ー?」
まさかのタイミングでかずきと同じクラスの石野たくみが現れた。たくみもまたかずきと同様モテる。でも、頭の方はというとあまり良くはない。
僕達4人は中学の時から仲がいい。高校でも部活がない日なんかはこうして4人で帰る。
しんじ「おい、たくみ。空気読めよ!」
たくみ「なんだよしんじ!もしかして…恋バナとかやってるの?」
たくみが茶化してきてイラッときたが僕は相手にせずに話す。
なおと「それよりたくみ、かずきは?」
しんじ「あー、あいつ呼び出しだよー。女の子から!」
(またか)
心の中で思う。
確か去年の冬休み前の終業式も呼び出しされて告白されていた気がする。モテる男は大変だなーと思うが、少し悔しかったりもする。
なおと「僕もかずきみたいにかっこよかったら、告白受けられてたかな…」
しんじ、たくみ「「え!?」」
2人が同時に声をあげ、僕のほうをみる。
普段恋愛に関してはあまり興味を示していない僕がこんなことを言ったから驚いたのだろう。だけど、恋愛に興味がなかったんじゃない。本当は好きな人もいた。でも、告白する勇気がなくて言い出せなかっただけだ。だから興味がないというのは違う。
たくみ「なおとどうかしたか??大丈夫か!!」
しんじ「おいおい、たくみ落ち着けって」
しんじは落ち着くように言うが、たくみは落ち着かない。もっと落ち着かなくなった気がする。
たくみ「いや、だってあの恋愛にこれっぽちも興味のなかったなおとがいきなりあの発言をしたんだよ?誰でもおかしくなったと勘違いするよ!!」
たくみはいいながら僕の肩を掴み、前後に揺らしてる。しんじに止めるように目でいう。
それを感じとったのかしんじはたくみをとめる。
やっと解放された、と思うとかずきが走ってきた。
かずき「ごめん、遅くなって。帰ろうぜ!」
歩き始めたかずきに僕はさりげなくより、小声で聞く。
なおと「告白のこと、みたってほんと?」
かずき「え、あーまじ。なおとって白井のこと好きだったんだなー」
たくみ「なになにー?また恋バナ??」
たくみがまた話に入ってくる。
しんじが止めようとしてるが、今のたくみのテンションじゃ止まらないだろう。
かずき「あれ?たくみしらないの?なおと、こないだ白井に告白してたんだよ」
たくみ「え?まじ!?」
なおと「おい!なんでたくみに言うんだよ!!」
かずき「いいじゃん、俺ら4人の仲だし。」
かずきはそう言うが、たくみは口がとても軽い。秘密にしてといってもすぐに口を滑らす事が多い。だから、あまりたくみには話したくなかった。
たくみ「というか、白井って誰だっけ?」
たくみが言うと2人は黙った。僕も黙ってしまった。
白井あかりさんと言えば、1年の頃に学校で1番かっこいいと言われていた2年生と付き合ってるという噂があったからだ。2人が一緒にいるところをみた生徒がいて、噂が本当ということがわかり、僕が2年にあがる頃までその噂はながれていた。僕達の学年なら彼女を知らない人はいないと思ってたが、まさか知らない人もいるとは…。
なおと「1年の時に噂になってた女の子だよ」
しんじ「今の俺の前の席の女子」
僕としんじがヒントをだしても、たくみは頭の上にはてなマークを浮かべていた。
かずき「俺らのクラスの橘と西園寺さんと仲いい女の子だよ」
かずきがそう言っても、たくみの頭の上にははてなマークが増える一方だ。
なおと「橘さんと西園寺さんのことまずわかる?」
たくみ「ごめん、俺女子と話さないからわからないわ。」
(モテるくせに自分のクラスの女子の事を知らないとは…)
しんじ「お前こないだ、俺の席に来た時に話しただろ」
たくみ「あー、あの可愛い子か!」
僕は驚きたくみに問う。
なおと「たくみ、あかりさんと話したの?」
たくみ「こないだなおととかずきが委員会の時、しんじに帰ろうぜって言いにいった時にぶつかってねー。あの子かー。可愛いよなー。」
しんじ「おいおい、あんまり可愛いばかり言ってるとなおとが嫉妬するからやめろ」
なおと「はっ!?嫉妬するわけ…!」
僕はしんじのことを怒ろうとするが、ここで怒ってしまったら嫉妬してると認めてしまうと思いやめた。
そんな時、かずきの携帯が鳴る。
かずき「あ、メールだ。橘からじゃん」
しんじ「お前、橘と仲いいの?」
かずき「え、あー、まあ席近いし、よく話すし仲いいと言われるといいかもな。あ、それでメールの内容なんだけど…明日とかお前ら空いてる?」
なおと、しんじ、たくみ「「「え?」」」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます