浮島にてウサギを抱く
ピーター・モリソン
1
カフェには数人の客しかいなかった。
ショッピングエリアの隅にあるとはいえ、いつも閑散としている。土曜日の午前はこんな様子だから、落ち着いて物事を考えるには、丁度いい場所だ。
僕は窓際の席に陣取っていた。
すべては整っている。が、創作ノートには今日の日付以外、何も書かれていない。止まったままだ。
何を書くべきか、じっと待つ。どうしたら認めてもらえるのか。妙な雑念が頭をよぎる。そもそもこんな心情じゃ、物語は始まらない。それは心得ているつもりだった。
兼業で創作に充てられる時間は限られている。何とか捻出したとしても、それがいつも実りあるものになるとは限らない。……まさに今がそうだった。この焦燥感がいつか歓喜に変わるのだと言い聞かせるしかない。
僕は席を立ち、カフェカウンターで二杯目を注文した。会計を済ませ、淹れたてのコーヒーを受け取ったところで、スマートフォンが着信を知らせた。
実家の母からだった。特別、用件のある電話ではなかったが、僕の覇気のない声に、母は何かを察したようだった。
「たまには顔でも見せなさい」
生返事をして切ったが、場所を変えてみるのも悪くないなと、考え直した。
創作ノートをリュックサックに詰め、着の身着のまま、僕は実家へ向かうことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます