累卵の危うきに
あえば
アイマスク症候群
少年はそれが普通のことだと思っていた。
耳の付け根には常に違和感を覚えていたが、それが当たり前だと考えていた。
まして、それを”取る”ことなどという発想はそもそも思い浮かびはしなかった。
街を歩いていると、他人とぶつかることも少なくなかったけれど、しょうがないことだと思って諦めていたし、耳をすませば周囲の声がちゃんと聞こえてきて、他人が何を思い、どんな感情を抱いているかも理解していた。人間の感情はもういくつも経験しているつもりだった。
ある日、あるひょうしに「それ」は取れた。それまで気づかなかった事が不思議なくらいに、少年の眼は明かりを捕えていた。
周りはアイマスクを着けたまま街を歩き、おしゃべりし、笑い合っていた。
交差点では人と人とが良くぶつかっていた。ぶつかる度にその人たちは不機嫌な顔をして謝っていた。
少年は向こうから来る人の肩を避けながら歩くことができるようになった。
時々、アイマスクをしていない人ともすれ違って、そんな人達は心得顔で少年に笑いかけた。
そして少年は世界を知った気になった。選ばれた人間になったと思った。
こうして、また普段が始まった。少年の変化は終わった。
少年が再び耳の付け根に違和感を覚えるのはまだまだ先の話になりそうだ。
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