「イトマキ×ツムギ」
青谷因
「ヨスガ」
近隣の住宅地で深夜に火災が発生したらしく、一軒の家が激しく燃え落ちたというのを、翌朝になって知った。
焼け跡からは成人のものとみられる遺体が発見され、警察や消防の調べで、連絡が取れなくなっていた家主のものと分かった。
高齢者の一人暮らし。
そして。
町内だけにとどまらない、評判の“ゴミ屋敷”。
ここのところよく聞く話かも知れない。
だが。
“知ってしまった”僕は。
周囲の人人とは、少し、異なる思いが込み上げていた。
彼女は、こう言っていた。
「人に特化していることなのだけれど―・・・この世にすがる気持ちが大きいほど、自分の周りを多くのもので満たそうとするのよ」
それは、満たされない心の穴を埋めるためなのだろうか?
それとも、近づきつつある死の恐怖をごまかすため??
「それもあるかもしれない。けれど、それだけではないわ」
「―この世と自分をつなぎ止めるための糸・・・よすがという、命綱の様なものを、できる限りたくさん用意しないといけないからよ」
生き物は、死が近づくと自然に、この世とのつながり「の糸」を、自らひとつづつ切り離していくものなのだという。
しかし。
「自然な流れであるはずの死を、受け入れられないものは、それに抗う手段として―」
“よすが”を新たに作り出し、自らを「生へ縛り付けて留めようと」躍起になるらしい。
その、最も安易な方法が、「物質依存」になるそうだ。
「でもね。付け焼刃で集めたものとの繋がりの糸なんて、かぼそくて頼りないものなのよ。だから、その分、たくさん数を集めようとするのよ」
さらに彼女は、衝撃的ともいえる一言を放った。
「結局、集めたものに命を燃やされるのに、ね」
集積された収拾物は、そのつながりが希薄なだけでなく。
自らが意図しない、思いもしないような。
“憎悪や怨嗟”
といった、負の要素を内包しているものも、少なくない。
それらに、命を奪われると言うのだ。
皮肉にも、負の感情がお互いを呼び寄せた、悲しい末路の様に思えた。
「あなたも、この世界から旅立つ時にはくれぐれも、未練を残さない人生を歩みなさいね」
決して軽くは無い宿命を負わされた我々は果たして、どのような未来を進み行くのか。
今はまだ、想像すら出来なかった。
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