第3話
新しい住処はイギリスの首都ロンドン。今回も高層マンションに住んでいる。いまだ男性に出会っていないが、慌てず様子を見ることにした。どちらにしろ、高度な文章は読めないので慌てていても仕方がし、イギリスは5歳から初等教育が始まるから図書館で調べるとしよう。
通学は絵美さんに車で送ってもらい、入学式に参加。まだ子供なので、入学式に集まった生徒は男でも女性に見える可能性がある。現に僕は、髪が長いから女性に見える可能性が高い。生徒については見た目だけで判断はできないだろうが、先生は間違いなく全員女性だった。
イギリスの男性風の名前を知らないだけかもしれないが、クラスに入っても男性風の名前は見当たらない。疑問は深まるばかりだ。
数日通い、校内であれば自由に移動できるようになったので、ずっと行きたかった図書館で本を探すことにした。狙うは世界史。今世を理解するためには世界史が手っ取り早いだろう。早く、前世の知識と比較したい。
すぐに目当ての本が見つかったので、読んでみると偉人の多くが女性ということ以外は、ほぼ前世と同じ流れだった。そして偉人の一部は男性だということもわかり、「この世にいる男性は僕だけなのか?」という問いに答えを出すことができ、ひとまずは安心した。だが、別の大きな問題があった。
本には「有史以来、人口の9割以上が女性。9割を下回ったことはない」とはっきり書かれている。僕の錯覚だが、本が「男女の比率が大きく偏ったいびつな世界にようこそ」と語りかけているように感じた。
さらに詳しく読んでいくと、女王が国中の男性を集めた後宮を作って贅沢三昧な生活をしだ結果、革命で滅びた。戦争になると男性が女性に襲われ、陵辱される事件が発生する。など、前世と今世では、男女の立場や行動が逆転している。それに加えて、9割が女性という比率だ。近年になっても、治安が悪化すると「男性狩り」と称する誘拐行為が蔓延し、外に男性が出られない国もあるようだ。
アメリカで母さんが「外には怖い人が沢山いる」と言ってたのは、脅しではなく事実だったのか。この世界、怖い。
僕の怪しい英語力でどこまで正確に読み取れたか不安ではあるものの、この世界では男性は圧倒的な弱者であり、女性に搾取されてきた歴史があったのは間違いないだろう。もちろん男性も何もしなかったわけではない。
自衛手段として、これも有史以来から色々と試されてきた。その中でも、一人の男性に複数の女性が集まり、男性は女性に精神と肉体の安らぎを、女性は男性の安全と金銭を提供するハーレム制度が代表的だろう。
昔は、村に男性が1人いて女性全員の共有財産だったこともあったらしい。子供も村全体で育てていたようだ。ハーレムメンバーだけで村が作れるとは……想像してた規模より大きい。なんだこの世界は。
これを読んだときは、ライオンみたいだなと笑ってしまったが、今でもこの制度が残っているということは有効な手段なのだろう。
そう、いまでも男性はハーレムを作ることが推奨されている。いや、社会に強制されている。
歴史書ではハーレム制度の詳しい説明は書かれていなかった。詳しく調べようとしても僕の英語力では、書かれても理解できそうにない。
「母さんたちが寝ている間に、スマホで調べるか」
その晩、母さんたちが寝てから起こさないようにベッドを抜け出し、サイドテーブルで充電しているスマホのロックの解除(目の前で解除していたので覚えていた)し、ブラウザを立ち上げ「ハーレム制度」で検索。すぐに目的のページにたどり着いた。ハーレム制度には男性と女性にそれぞれ義務と権利が課せられているようだ。
男性は「女性が男性の身を守る」「複数の女性と交際&結婚」できる権利がある代わりに、「女性の精神的・肉体的な満足させなければならない」といったハーレムを適切に管理する義務から「20代で最低でも女性一人と結婚し、子供を作らなければならない」といった法による強制まである。
また、男性は15歳になると1(最上級)〜10(最下級)にランク付けされ、男性ランクに応じてハーレムに加えられる人数が制限される。検査は毎年行われ、結果し応じてランクが変動する。
そもそもこのシステムの起源は、子供を作る能力。端的に言ってしまえば、種無しを見つけるためだと言われているが、現在は、男性を評価するだけの仕組みに変化し、見た目・体格・性格・精力・権力・名声といった複数の項目から男性をランク付けをしている。
女性は男性ランク・ハーレム内の序列が社会的なステータスになるようだ。
過去には男女平等を訴えてハーレム制度を廃止した国もあったが、出生率が著しく下がり、この状態が続くと国として維持できる出来なくなるため、ハーレム制度が復活したという歴史的な経緯があり、この世界において男女を平等に扱うことは、滅亡する行為だというのが歴史が証明してしまった。男女は明確に扱いを変えるというのが世界的にも常識となっているようだ。
「社会に余裕があればこそ、男女平等の世界が実現できるのか。男女比が偏った世界では、男女で適切な役割を押し付けないと、これ以上の繁栄は困難と。表面上は前世と似てたから油断していたけど、歪で狂った世界だな」
「ここまで男性が貴重だと、僕が精通したときはとろろご飯とかでてくるのかな。ははは、笑えない冗談だ」
大きな衝撃を受けたため、思わず独り言をつぶやいてしまった。少し手が震えながらもスマホを操作して、さらに人口についても調べてみると、前世との意外な違いが見えてきた。
「世界の人口は、前世の半分程度。特に、人工授精・精子バンク・医療施設が整っていない途上国は人口が少ない。アフリカ大陸あたりは、人がいない可能性もありそうだ。しかも、産業革命が起きても人口爆発は発生はせず、人工授精のシステムが整って、ようやく人口が大幅に増加したのか。それでも人口爆発とは言えない増加率……か」
様々なwebサイトを見ながら、さらに前世との違いを整理し、転生して5年。ついに結論を出すことにした。
「間違いなく転生先は、パラレルワールドもしくは異世界だろう」
表面上は、前世と共通しているところが多かったので結論を出すのに躊躇していたが、見えにくい部分でこうも違うと、この結論を出すしかない。そしてこの結論を出すということは……。
「妻や子供をもう一度見たかった。という淡い願いは儚く消えたか」
死ぬ直前は辛いことが多かった。結婚しているのに想いは通じず、心は磨耗するばかりだった。だが、付き合って初めてのデート・結婚・子供の誕生・子供の成長、一つ思い出せば次々と出てくる幸せだった思い出。
「そうか、もう、取り返しがつかないのか。そしてまた、結婚をしなければならないのか」
そう心から実感したとき、これ以上、何かを調べる気にはならなかった。
「もう寝よう」
そう心の中でつぶやいてから、再び、母さんのベッドに潜り込んだ。
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