第7話 修羅は笑っている
できた。さっきのよりはぜんぜん「それっぽい」。これなら高値で売れるだろう。あとは相応の口先を準備することだが、それはアニキに任せる。
ともかくこの調子で、ちょいちょいとコピペしていけばいい。それであっという間に完成だ。おそらく今日中には完成するだろう。そうすればアニキに「提出」して、当座はしのげる。俺の前途にも光が差してきた。
それに、この作業はなかなか楽しかった。そのままコピペしたのではすぐにばれてしまうので、うまく言葉を組み合わせ、つなぎ替えて配置しなければならない。言葉の調子を整えるのだ。それがなんとなくパズルゲームのようにも感じる。おそらくコツは音の響きというか、リズムにあるのだろう。詳しいことはわからないが、そんな感触がする。
その感触を頼りにして、なんとか四枚分の原稿を書き上げたときには、すでにとっぷりと日は暮れ、日付も替わっていた。思った以上に時間がかかったのは、コピペを慎重に進めすぎたからだろう。適当で良いはずなのに、妙に言葉の配置にこだわってしまった。適切な言葉を見つけるために、あちらこちらのページを飛び回り、デリートボタンを何度も押した。原稿が後半に進むにつれ、時間もかかるようになった。それを三枚分もこなしたのだ。時間はかかる。
最初の穴埋め原稿は、早々に捨ててしまった。どう考えても、バランスが悪かったからだ。一貫性がないとすぐにボロが出てしまうだろう。少し惜しい気もしたが、投資だと思って諦めることにする。
つらつらと詩を眺めているうちに一つ気がついたことがある。どうやら詩というやつは、言葉同士がきちんとつながっていなくても成立するものらしい。使われている言葉に難しいものはない。たまにわからない言葉も出てくるが、俺でもだいたいの意味はわかる。でも、一つひとつの言葉の組み合わせは、とても新鮮だった。目隠しして自分の家の中を歩き回っているような気分になる。あるはずのない秘密の小部屋を見つけたような気持ちが湧いてくる。
俺は窓を開けて空気を入れ換え、最後の作業に取りかかることにした。原稿用紙に手書きするのだ。
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