第6話 フィンガーは指している

 なんとか一つ目の原稿はできた。これで残りは三つ。いささか無理矢理くさいが、原稿さえ完成させておけば、アニキから追い打ちの脅迫、もとい請求が飛んでくることは避けられるだろう。

 とはいえ、残り三つが問題だ。半分以上が残っていた一枚目は、虫食い問題で済んだが、ここからはゼロから作らないといけない。見つけたもう一枚の切れ端は、ほとんど役に立たないだろう。それに、さすがにこのクオリティで「宮沢賢治の未発表原稿」として売り込むのも難しい。世の中には、いくらなんでも、という線引きはやっぱりある。

 俺は妙案を思いついた。

 大作家先生の詩はウェブ上で検索できる。しかもその数は膨大だ。だったら、それぞれの詩から適当に言葉をみつくろってきたらいいんじゃないのか。レゴブロックみたいなものだ。誰かが作った完成品をバラバラにして、そこから新しい完成品を作り出す。そうすれば、宮沢賢治っぽい作品ができるに違いない。

 考えてみれば、本人不在なのだから、専門家が鑑定することになるだろう。で、そいつらはどうやって「宮沢賢治っぽさ」を確認する? 過去の作品と照らし合わせてに決まっている。そうでなければ、正当性は主張できまい。だったら、過去に作家先生が使った言葉を同じように使えば、それらしさは確実にアップするはずだ。

 俺は腕まくりをし、複数のタブで詩のページを開きまくった。

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