娼館にて 一
「ようこそ、いらっしゃいませ」
女将と思しきおばさんがにこやかに俺達を迎えてくれた。
娼館の入り口にはラウンジがあって女の子達が十人程侍っている。
「どうぞ、お好きな女の子をお選びになって」
女将が言う。アシアンの腕に抱かれたまま、俺は女の子達を見回した。
女の子達はスケスケの服を着て体をくねらせ、流し目をアシアンに送っている。
アシアンが囁いた。
「どの子にします?」
「うーん、そうだなあ」
俺は迷った。どの子も可愛い。この店は、書記官のカスケルが選んだだけあって大きな店なのだろう、綺麗な子ばかり揃えている。着ている衣装もそれぞれ違う。胸を強調する子、足を見せる子、長い髪をことさら跳ね上げてみせる子。
大きな胸を赤い衣装で強調した娘がいた。濡れたように輝く黒髪、青白い肌、胸の谷間が深い。
「おい、あの胸の大きい子。赤い服を着た」
アシアンは頷いて、大股でその子に向った。
「おまえ、名前は?」
「ショワナ」
ショワナと名乗った女は赤く濡れた唇で上目使いに答えた。ツンと上向いた胸が柔らかそうだ。
「まああ、お目が高い。この子は人気者なんですよ。ほっほっほ」
女将が早速、値を吊り上げようとする。遣り手ババアってのは抜け目がないね。
「ほう、そうか? 若くないようだが」
「あなたのような強そうな人には、若い娘よりベテランの方が向いてますよ。あちらの具合もいいんですよ。きっと、ご満足頂けるかと」
「いくらだ?」
「そうですね、初めてのお客様ですし、おもいっきり値引きして二百でいかがでしょう?」
「百がいい所だが、俺の言った通りにやってくれるなら、もう二百だそう」
女将が一瞬顔を強張らせた。
「お客さん、いくら娼婦だからって無体な真似はやめて下さいよ。傷物にされちゃあ、元も子もないんだから」
「心配するな、乱暴はしない。俺は見るのが好きなんだ」
女将がほーっと息を吐いた。
「まあ、そういうことなら」
女将がショワナに目配せした。ショワナが優雅に立ち上がる。スタイルもいいねえ。
「では、お客様のお望みのままに」
アシアンが女将に金貨の入った袋を渡した。女将が嬉しそうに中身を確認する。
ショワナは俺達を個室へと連れて行った。前を歩くショワナの尻が揺れて、ああ、美味しそう!
八畳程の個室に寝台がおいてある。寝台の上、天蓋から薄い紗のカーテンが降りている。濃い赤の天鵞絨(ビロード)のベッドカバー。ふさの付いた長い枕。壁にかけられた鏡。テーブルの上のロウソク。隣の部屋から微かに響く男と女の息づかい。
これぞ、娼館って感じだぜ。興奮するねえ。この淫靡さがたまらん。
「ねえ、何がお望み? 見るのが好きって言ってたけど」
ショワナが、酒を金属のコップにそそいでアシアンに渡す。自身もくいっと杯を飲み干した。唇の端から酒の雫が滴り落ちる。赤い舌で唇を舐めるショワナ。蠱惑的な微笑みを浮かべ、アシアンから視線を外さずにショワナは寝台に寝そべった。
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