私は、手相が観れる!
かとも
私は、手相が観れる!
30年以上前、私が大学生の時、観相会という手相人相鑑定のサークルに所属していた。
今から思うと不思議なサークルで、夏休みが終わると連絡が来て、週1回のペースで勉強会が始まる。
大学祭は11月下旬に行われ、 観相会は毎年出店していた。
無事大学祭が終わると、その儲けで打ち上げや、忘年会兼送別会が数回豪華に行われて、年内でその年の活動は終わり。
新入生を勧誘することもなく、また秋になると活動を開始するというサークルだった。
こう書くと、宴会目当てのかなりいい加減なサークルに思われてしまうのだけれど、観相会の創始者は後にそのテの本を何冊か出版される程の本格的な方、大学祭当日には他の占いサークルなどは足元に及ばず、「よく当たる!」と大評判。
鑑定する我々は食事を摂る間もない位の人気で、その中でも超イケメン鑑定師の私の前には朝から長蛇の列が続いた…
卒業してからは鑑定の腕もすっかり錆びついてしまっていたけれど、後年、学生時代に手相をやっていて、心底良かったと思った出来事あった。
仙台の雑貨店店長に赴任して一年足らずの38歳の時の事、店で働く社員の女の子の結婚披露宴に招待されることになった。
旦那さんになる人は、私が赴任する何年か前にその店でアルバイトをしていたことがあり、二人はその縁でお付き合いするようになったとの事。
姉さん女房で、不況のせいもあってか旦那さんは未だ定職が決まらずといったことも耳にしていたけれど、長い付き合いのケジメをつけ、ちゃんと式を挙げることにしましたのでと上司としてのスピーチを頼まれたのだった。
こちらは赴任して1年足らず、その女性はプライベートの事はあまり話題にしない方で、旦那さんになる人もちらっとみかけたことがある程度だったのだけれど、知り合った当時の店長などを東京から呼んだりしたら交通費などの負担が大変。
こじんまりとした式を想像しつつ、へんな受けを狙ったりせず、二人で力を合わせて頑張ってください、位の事を短めに話せばよいかと快く引き受けたのだった。
会場となるホテルの名前は聞いたことがなかったのだけれど、到着した時、それがやけに立派だったので嫌な予感が。
受付を済まして席札を貰った時、その予感が的中したことを確信。
そのホテルの一番広い会場での大披露宴、新婦側のテーブルの一番新郎新婦に近い席だ。
来賓は圧倒的に新郎側が多く、後で聞いた話では、新郎は青森のにんにくで有名な町の名士の息子さんだったそうで、親戚縁者御一行様はバスをチャーターして、はるばる青森から仙台に乗り込んでこられたということだった。
披露宴が始まってすぐ、司会の方が新婦様側の主賓ということで…とスピーチがあることを教えてくれる。
あれよあれよという間に、マイクが回ってきた。
旦那さんの職が不安定という内容は、この状況下ではタブーだ!と私の理性が警告を発している。
前日に考えてきたスピーチはそのことを前提にしていたので、ほとんど使えそうにない。
司会の方に促され、
「この度は、このような大変おめでたい席にお呼びいただきまして…」と口を開いた。
彼女は仕事に関してはとても優秀で、店には無くてはならない存在、仕事ができるからといって出しゃばりもせず、よく気配りができて…
どんなガサツな子でも結婚式くらいは褒め言葉で飾られるもので、ごくごく当たり前の言葉。そんな当たり前の言葉でも、彼女に関しては事実なのだから仕方がない。
一緒に働いている期間に、彼女にはこれといって大きな失敗やらエピソードもなくて、どうやってこのスピーチを終わるか、マイクを持つ手が冷汗でビッショリになっているのが自分でもわかる。
とりあえず、失礼なことは言ってないし、もう脈略無く突然「お幸せに!」と終わるしかないか…と諦めかけた時、閃いたのが学生時代に稀に使っていた手相ネタ。
幾分唐突なのは仕方がない、学生時代に手相鑑定を習得した話を切り出し、二人が幸せになるおまじないを伝授しますと、新郎の左手と新婦の右手のヒラ同士を合わせさせ、
「手と手のしわとしわを合わせて、シアワセ!」
なんとかオチをつけることができたのだった。
これが、予想外にウケて、無事スピーチを終えることができた。
でも、以後の反応は関西で予想されるそれとはかなり異なっていた。
そんな駄洒落でもとりあえずウケたわけだし、なんとか大役を終えれたとホッとして、さて祝儀の元を取るため、しっかり飲み食いしてやろうと思っていたところへ、なんと、ご親族の方々が次から次へと私の席まで足を運んでくださり、素晴らしいお話に感動しましたというような、感謝の気持ちのこもったご挨拶をたくさんいただくことになってしまったのだった。
披露宴が終わるまで恐縮しっぱなし、どの方も本当に純粋に喜んでくださっているようなので、かなり後ろめたい気持ちにさせられてしまう。
関西でなら、うまいことオチ付けましたね!とか、受けて良かったですね!とか言って褒められて終わってそうなところだ。
日本は本当に広い…
以前勤めていた会社で何年間か雑貨屋の店長をさせていただいたけれど、私にとっては、この時が店長職としての最大の試練だったように思う。
きっと若い女性の多い職場には、私と同じような試練を味わった方がたくさんおられるのだろう。
あと、残念なことに、仏壇屋がコマ―シャルでこのネタを使いだしてから、もうこのオチは使えなくなってしまっっている。
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