巨人専属の美容室の最後……

ちびまるフォイ

巨人の髪の毛はどこまでも視界不良

どしん、どしん、どしん……。



地響きとともに店に入ってきたのは大きな巨人だった。


「カットお願いします」


あまりの大きさに顔がどこにあるのかも判別がつかない。

巨人は専用のイスに座ると、やっとこさ長い髪の毛が見えた。


「みんな、カットをはじめるぞ」

「「「 はい!! 」」」


ここは巨人専用の美容室。

ただしカットを担当するのは人間たち。


お互いにカット範囲を分担しながらバカでかい巨人の髪を切っていく。

カットしている間は自分がどこにいるかもわからない。

髪の毛の草むらをただ切り進むだけ。


「終わりました、お疲れさまでした」


数時間後、何十人単位で行っていた散髪は終了した。

巨人は鏡の前をいったりきたりして、出来に満足していた。


「どうもありがとう。ここは本当に腕がいい。

 とくに、右上側頭部を担当した人が一番いい」


「え、俺ですか!?」


美容師が名指しで褒められるほど嬉しいことはない。


「君はいい美容師だね、友達にも紹介しておくよ」


「ありがとうございます!!」


巨人の髪の毛を切ったあとで疲れ切っていたがそんなことは吹っ飛んだ。

その日は鼻歌まじりで気分良く帰った。

家がもうすぐ見えたところで声がした。



「……お前が美容師の山田だな」



「だ、誰だ……?」


暗いのと相手が巨人の中でもぐんを抜いてでかいので、全容をうかがい知ることはできない。


「君の話は聞いている。人間の中でもとくに腕がいいそうだね。

 どうか私の頭の専属で切ってほしい」


「いやいや、お客さん、それは無理ですよ。店に来てもらわないと」


「ありがとう、本当に感謝する」


「って聞けぇぇぇ!!」


巨人に俺の小さな声は届かない。

大きな手に拉致されて巨人の家へと運ばれた。


「それじゃあ、私は寝ているから、起きるまでに切っておいてくれ。

 巨人の髪の毛を切るにも一人じゃ時間かかるだろうからね」


巨人は髪が落ちてもいいようにシートを敷いた寝室で眠りについた。

あたりに脱ぎ散らかした服が落ちている。

体に髪の毛が落ちても平気なように服も脱いでいるのだろう。


「よし、やるか」


朝まで時間はない。

なんとか終わらせなくては。


もうどこからどこまでが髪の毛かわからないが、ベッドまでよじ登ると、

ちくちくする髪の毛の森へと迷い込んだ。


「やっかいだな、くせ毛か。ちりちりしてるし、これはカットが難しいぞ」


不満も言ってられないので、目の前に見える髪の毛からどんどん切っていく。

切っても切っても切っても……まるで進んだ気がしない。


空から朝日が差し込み始めても、カットした部分がけもの道のように細く残っているだけだった。


「だめだ!! これじゃぜんぜん終わらない!! カットが間に合わない!」


しかも、手持ちのハサミは針金のような毛を切りすぎてダメになった。

残り時間はあとわずか。どうすれば広大な毛の草原をカットできるのか。


「……草原? そうか! その手があった!!」


美容師の4次元ポケットから芝刈り機を出すと、髪の毛を一気に切り進んだ。

ばりばりばりと毛がカットされて、短い毛の残骸がとびちる。


「これは効率的だ!! これなら一気に終わらせられる!!」


顔を毛まみれにして、口にも毛が入りながらもカットを進めた。

芝刈り機がすべてカットし終わると、ぎりぎり巨人が起きるまで間に合った。


我ながら美容師としての腕はもちろん機転も回ることに鼻が高い。


「んふあぁ、おはよう。どうだい? カットは終わったかい?」


「はい!! 完璧に切り終わりました! すごいでしょう!」


「おお、本当だね。きれいに全部カットされている」


「そうでしょうそうでしょう!!」










「でも、カットを頼んだのは、股の毛ではなく、髪の毛なんだけど……」


巨人は困ったように言った。

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