K・A・I 外伝

秋澤景(RE/AK)

一章

ゲンソウワークス

 物語ることは容易ではない。

 だがは物語らなければならない。

 大里おおざと雅也まさやのことを。

 大里たつみのことを。

 玉緒たまおアキラのことを。

 玉緒たまおれいのことを。

 中井なかい一麿かずまろのことを。

 彼らにまつわる出来事を。

 過去の結末を。


 何故?

 大げさかもしれないが使命だからだ。

 でも物語ることは難しい。真意が果たして伝わるか不安だ。

 それでも。それでもだ。

 物語るのはにしかできない。

 あの年あの国のあの街で起こった事を語れるのはしかいない。

 他の文達者はもうどこにも存在しない。

 不慣れで筆下手なだから時間がかかるだろう。

 に再び命が宿るよう祈りながらは物語る。


 今日は十二月三日。

 外は雪がちらついている。                       

 の記憶では、の誰とも、雪の中での思い出は無い。

 雨か、晴れか、曇りのときだけ。

 この三つしかないのがたまらなく寂しい。

 今からしばらく筆を置くことにする。

 読んでいる方には、次のページから物語が始まっているはずだ。

 不思議なものだ。やはり物語るのは容易ではない。

 は、の気持ちも名前も書くことさえ躊躇う臆病者だ。

 について全てを物語ったとき、のなにかが変わると信じたい。



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