捨てる

@sss

第1話

冷蔵庫を捨てた。とうとう家の中には布団一式があるのみとなった。


テレビ番組で断捨離という言葉を知った。それは昼に放送されている主婦向けの情報番組で、断捨離というのは部屋の片付けをする際のキーワードらしい。


僕は自分にとって必要なものが何か考え始めた。考え始めたが、すぐには思いつかなかった。そこで、手当たり次第に家の中のものを手に取っては捨てることにした。捨てるときに抵抗があれば必要ということだ。


しかし、抵抗を感じるものは何一つ無かった。大学で使っているテキスト、時計、筆立て、パソコン、雑誌、漫画。手にした順にビニールの大きな袋に詰めた。それらを乗せていた机や本棚にも粗大ゴミとして捨てるためのシールを貼った。スマートフォンで電化製品の捨て方を調べ、そのスマートフォンも袋に入れる。あらゆる物を捨て、残すは布団だけとなった。


布団だけは捨てられなかった。僕は寝るのが好きだった。出かけるより、人に会うより眠っているのが好きだった。布団は必要だ。布団さえあればいい。やっと見つかった。


僕は布団に横たわり自分の胸に手を当てる。そして、スッと立ち上がり窓を開け、ベランダから飛び降りた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

捨てる @sss

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る