第2話 犠牲者

家のドアを開け中に入る。家の中は暗く明かりは1つもついていない。 玄関横にあるスイッチを押して玄関に灯りをつけた。






綾人の両親は綾人が中学生の時に離婚し今は父と2人でアパートに暮らしている。父はトラック運転手をやっており家に帰ってくる日は少ない。家に帰れば、綾人は1人きりだった。その日も父親はいない。





制服を脱ぎ私服に着替えた綾人。ビニール袋に入ったカップラーメンを手に取り机に置いた。お湯を沸かし終え、カップラーメンの中に入っていた、かやくや液体スープを取り出しそこにお湯を注ぐ。残ったお湯は台所にあるポットの中に入れる。



カップラーメンをリビングに持って行き小さな机に置き、その机にあったリモコンを手に取り電源ボタンを押した。小さなテレビがつき、夕方のニュースがやっていた。それを綾人はじっと見ていた。




テレビから目を離しカップラーメンの蓋を開け、液体スープを入れ箸で混ぜ、綾人はカップラーメンを食べ始めた。すする音とニュースキャスターの声が虚しく部屋に響き渡った。












カップラーメンの容器をゴミ袋に入れ、箸を洗った。食事を終えリビングのソファに座り通学に使っているバッグからスマートフォンとモバイルバッテリーを取り出し、スマートフォンを使うが、長くは使わずにすぐにソファ近くにあった机にスマートフォンを置き、綾人はソファに横になる。その日はお風呂も入らずにソファで眠ってしまった。
















翌日、ソファから落ちて目が覚めた綾人。目をこすりながらスマートフォンを起動させ時間を見た。時刻は午前7時。カーテンを閉めたままで部屋には明かりが入ってきていない。


綾人は浴室へ行きシャワーを浴び終えタオルで体と髪の毛を拭き、浴室に持ってきた制服などをその場で着た。髪の毛は整えずに浴室を後にしソファの近くに置いてある通学用のバッグを手に取り机の上に置いてあるモバイルバッテリーをバッグの中に入れる。スマートフォンは手に持った。




玄関に向かいながらスマートフォンを起動させ時刻を確認する。7時20分になるところだ。スマートフォンを制服のポケットにしまい、靴を履き玄関のドアを開け外に出る。建物が太陽の光に照らされている事がわかる。玄関の鍵を閉めポケットにしまった。アパートの階段を下り学校へと向かう。




「あ…もうすぐじゃん。あの人の」


駅に向かう途中にある時計を見てそう感じた綾人。スマートフォンを取り出し時間を見た。7時29分だった。あの人が死ぬまで後1分だった。




そして、スマートフォンの時計が7時30分を表示する。



「…死んだか」信号待ちの綾人はスマートフォンの画面に表示されている時刻を見て小さく呟く。


その時間と同時刻、綾人と同じクラスのあの男子は、通学途中に駅のホームにいた誰かに背中を押されホームに入って来た電車にはねられ、亡くなった。即死だった。綾人の乗る2駅前にその事故は起き、綾人や通勤通学の人たちが電車に乗れずにいた。事故が起き約1時間後に電車が来た。綾人は駅員から遅延証明書をもらい、電車に乗り込む。



また電車のドア付近に来て外の景色を見ていた。




綾人は表情を変える事なく学校へと向かって行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る