41.悩めるロザリア

 その日の真夜中。バンガルド軍陣地ないに囚われたロザリアは、力なく項垂れて独り言をブツブツと呟いていた。

 それを見た尋問官2人は不気味そうに表情を歪める。

「なんだ? これが討魔団最強の戦士なのか? 気持ち悪い」

「早く始めるぞ。我が軍としても、連中の情報は握っておきたい。魔王軍がコイツを引き取る前に……」と、手に持った拷問用棍棒を振りかぶり、脇腹を殴りつける。

 が、手応えが鈍く腕に残り、衝撃が全て尋問官に返ってくる。

「なんだと?!」と、負担のかかった肩を抑え、棍棒を見る。なんと、鉄製の棍棒はぐにゃりと曲がっていた。「ウソだろ?」

「……ヤオガミ列島……」ロザリアは顔色を変えずにまだ呟き続ける。殴られた脇腹は不思議と傷ひとつ付いていなかった。

「こいつ……なんなんだ?!」と、もう1人も数発殴る。

 しかし、彼女は全く怯まず、身体には傷ひとつ付かなかった。

「封魔の首輪は付けているよな? なのになんだ?」と、彼女に付けた首輪を掴む。


「……もう終わりでいいな?」


 ロザリアはゆっくりと顔を上げ、鋭い眼光で2人を射抜くように睨み付ける。

「「は、はい!!」」2人は殺気に心臓を貫かれ、腰を抜かしながらも小屋から逃げる様に出て行った。

「私は……どうすれば……」と、彼女は再び俯き、重たく考える様にブツブツと呟いた。



 同時刻。周辺の捜索を完了させたディメンズとケビンが到着する。

「お帰りなさいま……せ……」と、出迎えた兵たちが一斉に首を傾げる。

 ケビンはボロボロになったコートを腰に巻き、半裸であった。

「そんなに見るな! 心配なら、ズボンと上着を用意してくれ!」と、ケビンは大剣を地面に突き刺し、胸を聳やかす。

「ったくよぉ……で、アリシアはどこにいる?」一緒にいるのが恥ずかしそうにディメンズは頭を掻きながら、兵たちの案内する作成司令本部へと脚を向ける。

「お、久々のアリシアさんだぁ!」と、ケビンが後ろから着いていく。

「お前は服を着てからだ!」

「へいへい~ おい、早くしてくれよ! Lサイズな! あと、ロングコートな!」

「は! で……なぜその様な格好に?」と、兵のひとりが駆け寄る。

「ドラゴンに噛み砕かれたんだよ! ったく、いきなり現れてなんてヤツだ! でもあの口臭……知っているヤツだったなぁ……」と、ケビンは兵に案内されるままに服を新調しに向かった。

 その頃、作戦司令本部ではアリシア、ヴレイズ、エレンの3人が久々の再開を祝っていた。

「それにしてもアリシアさん、その髪色は素敵ですね。髪型も……後ろに縛れば私とおそろいですね~」と、優しく撫でる。

「いや、本当はバッサリ切って焦げ茶色に染めたいんだけど……シルベウス様が許してくれなくてさぁ……」と、鬱陶しそうに自分の髪を弄る。

「しるべうすさま? アリシアさんの先生ですか?」

「あぁ、あの山の神様か」一度あった事のあるヴレイズは思い出すように口にする。

「神様?!」

「神様って言うか、天空の監視者? そう言う存在があと2人いるって言ってたな」

「そんな人から修行を?!」と、エレンは目を剥きながら詰め寄る。

「いや、直接修行を付けてくれたのはお付きのミランダって言う人で……あ、でも色々相談に乗ってくれたのはシルベウス様だったなぁ~」と、思い出すように天井を見上げる。

 そんな中、ディメンズが現れて大型ボウガンを壁に立てかける。

「よ! 久しぶりだな、アリシア」

「あ! えぇっと……確かディメンズさん! お久しぶりです!」と、深々とお辞儀をする。

「なんだ、その恰好は? ナイアも色々とセクシーな格好ではっちゃけていたが、やはり娘のお前も?」と、アリシアの恰好を撫でる様に指を差す。

「……やっぱり変ですよね? そろそろ着替えたいなぁ……もういいよね?」と、指を立てて光魔法で発光を始める。

 それから数秒後、アリシアは普段着用している装備を身に纏い、金色の長髪を後ろで纏める。

「やっと落ち着いた。で、ロザリアって人を助けに行く作戦だけど……」と、慣れた様に手袋を嵌める。

「それは明日、ラスティーが到着してからで大丈夫だろう」と、ディメンズは椅子に腰掛けながら煙草を咥える。

「そんなに悠長に構えていいのか? 俺はいつでも行けるぞ?」と、ヴレイズは昼の戦いの疲れを見せない様に立ち上がる。

「いや、この救出作戦もあいつは策に組み込むつもりだろう。まずは司令官の到着を待て。それに、彼女は現在尋問を受けているだろうが……それぐらいで音を上げるタマじゃない」と、煙を天井目掛けて吐く。

 そんな彼の言葉を聞き、納得する様にエレンが頷く。

「そうですね。彼女なら1日ぐらい大丈夫です。今の私たちに出来る事は、彼女の鎧と剣の手入れを代わりにしてあげる事でしょうか?」

「じゃあ、それはあたしがやるよ! どんな得物か見てみたいし!」と、アリシアが手を上げる。

「それがいいですね。では、私はキャメロンさんの様子を診てきます」と、丁寧にお辞儀をして退室する。

 それからアリシアとヴレイズも続くように作戦指令室を後にし、残るのはディメンズのみとなった。

 そこへ服を新調したケビンが勢いよくやって来る。


「アリシアさ~ん! お久しぶりで~す!」


「…………もうここにはいねぇぞ」彼を出迎えたディメンズは煙草の灰を落としながら出迎える。

「なんであんたしかいねぇんだよ……」

「おめぇがおせぇんだよ」



 エレンはキャメロンの眠る診療室でカルテを見ながら、ヒールウォーターバスに手を入れて様子を診る。

「うん、大丈夫……背骨の傷はまだ始まったばかりだけど、このまま順調にいけば、半年で完治する筈……」と、頷く。

「彼女の性格で、じっとしていられるか……それが問題かな」と、後ろからヴレイズが声を掛ける。

「そうですね……6カ月……彼女にとっては長いですね。それまで出来れば、運動も控えて貰わなければ」

「俺はフレインっていう子と旅をしたんだが、彼女と似た性格をしている。そう言う性格の子ほど、傷の治りが遅い……」と、キャメロンの体温を、目を通して診る。

「背骨ですからねぇ……慎重な治療をしなければ、一生脚を使えなくなってしまいますから……」と、カルテに色々と書き加える。

「難しいなぁ……こういう性格の子は……」



 アリシアは早速、ロザリアの装備の手入れを始めていた。自前の手入れセットで鎧を磨き、大剣の調整を始める。

「いい鎧だなぁ……魔力に反応して動き、防御面が向上し、柔軟性も損なわれない……凄いなぁ~」と、見とれながら紅色の鎧を磨く。

「アリシアさん! 久しぶり!」と、急にケビンが現れる。

「お、ケビン! 先についていたんだね! どこにいたの?」

「ちょっとドラゴンの口の中でね……」

「はぁ?」と、目を丸くする。

「いや……最悪な経験だったなぁ……」と、参ったように頭を掻き、身震いする。

 そんな2人の間にヴレイズも現れる。

「よ、お2人さん。まさか2人が旅をしていたとは思わなかった」

「よ、ヴレイズ。お疲れさん。相当疲れが溜まっているんじゃないか?」と、彼の身体の調子を見抜くように目を光らせる。

「ま、まぁな」と、ここでやっと弱味を見せる様にその場に腰を下ろし、溜息を吐く。彼はこれ以上エレンの仕事を増やさない様に気を遣っていた。

「じゃあ、お2人さんにいい事してあげる」と、アリシアは大剣を磨きながら指を鳴らす。

 すると、2人を光のベールが包み込む。その光は回復魔法の様に身体を癒し、疲れを取り除く効果があった。

「流石、アリシア」

「助かる……流石、俺の女神さまだ」と、ケビンが微笑む。

「俺の?」ヴレイズは片眉を上げ、鋭い眼光を向けた。

「おっと、女神さまを独占しちゃいけないよな。でも、いずれは独占したいねぇ~」

「お前、そーいう奴か……」と、ヴレイズは苦そうな顔を向けた。

「その女神さまって言うのはやめてくれる……?」と、アリシアは参ったように頭を掻いた。

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