20.集結する仲間たち

 灼熱の塔の一件から2ヵ月。ヴレイズとミシェルはエルーゾ国を出て南下した小国内の森にいた。

 そこでミシェルは座禅を組み、己の中の体内で巡りつつある魔力に集中していた。

「最初は指先から絞り出す事に集中するんだ」と、ヴレイズは彼女の正面に立ち、炎魔法の初歩をレクチャーしていた。

「ん……胸の下に暖かいのを感じる。動かせそうなんだけど、上手く行かないなぁ……」と、ミシェルは目を瞑りながら集中し、もどかしそうに表情を歪める。

 彼女は国を出る前、ヴレイズに「私もサンサ族として、炎使いになりたい」と、教えを乞い、現在は旅をしながら修行を続けていた。

「あまり力むと、いきなり火炎が飛び出ることがある。君は長い間、体内の魔力を覚醒させずにいたから、急に飛び出るかもしれない」と、ヴレイズは落ち着きながら口にし、自分も静かに体内の魔力循環に集中する。

 彼自身も常に鍛錬を行っており、如何に一瞬で魔力を引き出すかと言う修行に集中していた。

 そんな彼らの元に、気配を持たない者が現れる。その者は常に影の中に身を置き、ヴレイズらを観察していた。

 そんな彼が森に入った瞬間から気付いていたヴレイズは、ゆっくりと視線を向ける。

「ふむ、敵意はないな」

「流石、噂に聞く以上に鋭い……私の気配に気づいたのは賢者レベルのくらいなモノであったが……」と、悔しさを隠しながら影から脚を出し、跪く。

「凄く怪しい人だけど……?」ミシェルは気を抜いたように顔を向ける。その瞬間、指先から火炎が噴き出し、上空に火柱を上げる。「あわわわわ!」

 そんな彼女の火を一瞬で吹き消しながら手を払い、一歩前に出るヴレイズ。

「で? 何の用だ?」と、彼は手早く茶を3人分用意する。


「私はラスティー・シャークアイズの使いです。貴方を我らが軍に案内しに来ました」


「ラスティー?! そっか……そうだな、そろそろだな」ヴレイズは頭を掻きながら微笑み、地面に腰を下ろした。

「ラスティーって、ヴレイズが以前に一緒に旅をしていたっていう……」

「あぁ……うわっ、早く会いてぇ……早速、案内してくれ!!」と、使いに茶を手渡し、直ぐに飲む様に急かす。

「は、直ちに」と、飲み頃の茶を一気に飲み干す。



 トコロ変わってグレーボン国内の討魔団本拠地。

ここは以前、タイフーン強盗団の町だったが、いまは土地を広げ施設を増やし、立派な基地となっていた。

 ここを中心に国内には拠点がいくつもあり、国全土をカバーできる程に拡大していた。

 軍団の規模も数千から1万前後まで増えており、キャメロンやライリー、ローレンスらも団長を務める程になっていた。

 更に、グレーボン首都はラスティーが手を出すまでもなく、カジノを仕切っていたオスカーらが表も裏も掌握し、経済を上手く回していた。

 彼らの活躍により、国内に蔓延る強盗団は徐々に減少し、治安も安定していた。

 その為、グレーボン国王は彼らを重宝し、ラスティーを第一の相談役に任ずる程に信頼していた。

 


 そんな本拠地の外れにある訓練場では、連日訪れる入団希望者の選考を行っていた。今の彼らは人数よりも、個人の質を求めており、食い詰め傭兵団に用は無く、そう言った者らは門前払いしていた。

 この選考にやって来る者の中で優秀な人材を探すのはなかなか難しく、審査員を務めるレイは目を押さえながら書類を眺めた。

「人喰いレッドジョーに剛腕バルク。救世主ハカン? はぁ……口ばかりの連中ばかりだな……」と、頬杖を突きながらため息を吐く。

「どうする? 全員門前払いにするか? 別に特別人材を求めている訳じゃないし、ワルベルトさんらの紹介だけに抑えるか?」と、隣に座るエディが口にする。

 しかし、彼ら討魔団の噂は南大陸だけでなく、全大陸に轟いており、噂を聞き付けたモノから片っ端から入団希望しにやってきていた。その中からエディとレイが慎重に厳選していた。

 そこへ、新たな入団希望者が現れる。

「名前は、ケビン。ただのケビンでいいのか?」訝し気にレイが問う。今迄の入団希望者は大体、大層な二つ名を引っ提げていた。

「おぅ。で? 次のテストは?」と、自身ありげに腕を組む。一応、ここに来るまでに『筆記テスト』『基礎体力テスト』があり、それに合格した者だけがここに立つことが出来た。

「俺たちの立ち合いの元、実力テストがある。お前くらいなら……」と、レイはケビンの背格好や所持する得物などから判断し、ローレンスに試験管を任せる。

「よろしくお願いします」と、普段の大槌の代わりに木製のハンマーを持って現れる。

「この人でいいのか?」と、ケビンは目を怪しく光らせながら大剣を片手に笑う。

「つべこべ言わず、始めろ」エディは書類に目を通しながら捲し立てる。彼は他にも仕事があり、片手間で立ち会っていた。

「では……」と、ケビンは微笑を浮かべながら凄まじい殺気を吹き上がらせ、突風の様にローレンスに向かって浴びせかける。

 すると、それを察したロザリアが彼の前に立ち塞がり、一身に殺気を被る。

「……この者は私が相手をしよう。ローレンスさんは下がってください」と、鋭い瞳でケビンを睨み付ける。

「は、はい」殺気の勢いに縮み上がったローレンスはそそくさと下がった。普段、戦場から放たれる無数の殺気にはビクともしない彼であったが、濃度の濃い魔獣の様な殺気には慣れておらず、肝を冷やしていた。

「うん、貴女なら相手になるかな?」と、大剣を片手で回転させ、肩に担ぐ。

「ただの人間ではないな……」と、彼女も大剣を構え、彼と同等の禍々しい殺気を吹き上がらせる。

 それを前ににしてレイとエディは顔を青くさせて表情を引き攣らせた。

「ん? これ入団希望者の選考だよな? なんでこんな物騒な事になってんだ?」エディはやっと書類から目を離す。

「知らんが……あのケビンと言う男はただ者ではないな」レイは腕を組んで眼前の睨み合いに集中する。


「んじゃ、いくぜ」


 ケビンはその場から姿を消し、一瞬で間合いを潰してロザリアに斬りかかる。

 それに瞬時に反応し、彼女は受け太刀し、周囲に衝撃波と激震を放つ。

「「うお!」」この衝突を見て、レイとエディは椅子から立ち上がり、急いで立ち合いを止めさせる。

 何故なら、彼ら2人は幾度もロザリアの立ち合いを見て来た。猛者、一端、口だけの者など、あらゆる者らがロザリアに一太刀浴びせ、返り討ちに遭い得物をへし折られていた。彼女とまともに打ち合えるのは今の所、オスカーの右腕であるコルミくらいのモノであった。

 このケビンと言う若者はなんと、そのコルミ以上の鍔迫り合いを見せた為、2人は一瞬で察し、立ち合いを急ぎ止めさせたのであった。

「と、取り合えず詳しく話を聞こう!!」エディは苦笑いで手を叩く。

「その方がいいな。あんた、いい筋しているな」と、ケビンは大剣を収めながらロザリアの肩を叩いた。

「久々に腕が鳴ったんだが……残念だ」ロザリアも大剣を収めながらため息を吐いた。

「ここで貴女に暴れられても困るんだ……」レイは内心焦りながら口にし、冷や汗を拭った。



「吸血鬼……今、昼だぞ?」太陽を指さしながら首を傾げるエディ。

「詳しく話すと長くなるんだよなぁ……」

「で、どこで我々の噂を耳にしましたか?」と、レイは淡々と問いかける。

「場所は、オタクらの仲間のニックから。あいつとはちょっとばかりの知り合いでさ」

運び屋ニックはワルベルトの紹介を受けてスカーレットと共に、数か月前に入団していた。彼は主に武器弾薬の輸出入を担当していた。

「あぁ、あいつの言っていた吸血鬼ってあなたの事だったのか。確か、アリシアさんと一緒に旅をしているとか?」レイは前のめりになって問う。

「と、言う事はアリシアさんも一緒に?!」エディも興味ありげに身を乗り出す。ラスティーからよく聞いていた彼女にはぜひ会いたいと考えていた。

「いや、彼女は一足遅れての到着だ。もし着いたら、暖かく出迎えて上げてくれ。んで、俺なんだが……配置とかそう言う細々としたことは省いてその、自由枠ってトコロで頼むよ。軍団とか指揮とか、そういうの苦手なんだよね」

「「……はぁ?」」レイとエディは声を揃えて首を傾げた。



 同時刻、ゴッドブレスマウンテン山頂。そこへ向かて一筋の光が飛来し、シルベウスの宮殿出入り口手前にゆっくりと近づく。

 それにいち早く気が付いたミランダは顔を出し、にこやかに近づいた。

「お早いお帰りですね、アリシア」

「ただいま」と、彼女は笑顔で返した。

 すると、そこへシルベウスがメロンパン片手に現れる。

「どうした? 忘れ物か?」と、一口齧る。

「ま、そんな所かな」

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