18.ヴレイズVSグレイ 2戦目
戦いを終え、急ぎ砦へと戻ったヴレイズは、早速ミシェルの元へ向かう。その道中、エルーゾ国の兵たちは皆、彼を讃えたが、少数の者は顔を青ざめていた。
灼熱の塔は元々、昔からこの国の王族が狙っていた兵器であり、それが天空で粉々に砕け散ったため、事情を知る者達は冷や汗混じりにヴレイズを見据えていた。
そんな視線に気付きながらも、ヴレイズは医務室へ向かい、ぼうっとした顔で窓の外を眺めるミシェルの前に立つ。
「戻ったか、ヴレイズ」彼の帰りを待っていたリヴァイアは微笑を覗かせながら迎える。
「援護をありがとうございました、リヴァイアさん」深々と頭を下げるヴレイズ。
「悔しい事に、私ではあれには勝てなかっただろう。負けぬでも、勝負はつかなかったと思う。よくやってくれた、ヴレイズ」
「それよりも、早くこれを!」と、ヴレイズはクリスタルを取り出し、ミシェルの前に出す。それを自分の魔力に反応させて光らせ、少しずつ彼女の胸の上から注入していく。
すると、少しずつミシェルの顔色に生気が戻り、クリスタルが全て溶けて入り込むと、瞳に輝きが宿る。
「……っは! ヴレイズ!!」完全に止まっていた意識が戻り、表情が戻る。
「よかった」何事もなく戻り、安堵するヴレイズとリヴァイア。
「ジャルゴは?! グレイは?! 塔は?!」と、目を丸くして挙動不審に見回す。
「少し話が長くなるな」説明には数分かかり、塔を粉々した下りでミシェルは悲鳴を上げた。
「ぬわんですってぇ!!!」王から塔を確保する様に命令された為、仰天する。
「あれ? 君も塔を破壊すことには賛成だったハズでは?」
「いえ、本当にひとりで破壊するなんて……人間ですか?」
「さりげなく失礼な事を言うんだなぁ……」
「で、で、グレイは? 兄の仇は?!」
「……あいつは……」ヴレイズは複雑そうな顔で頭を掻いた。
塔の崩壊を目にしたヴェリディクトは満足そうに踵を返す。
「素晴らしく成長しているな、ヴレイズ君。不死の肉体すら滅ぼすとは……だが、ようやく使い手として一皮剥けた程度だ。本番はこれからだ……期待すると良い、フレイン嬢」
「……」彼女は何も答えず、ただその場に用意してあったティーセットを片付け、彼の後ろに続いた。
「引き換え、グレイくんの成長はここまでかな?」と、弱まりつつある蒼炎の気配の方へと顔を向け、残念そうにため息を吐く。
「……ヴレイズ……」フレインは砦方面へ顔を向け、瞳の奥の炎を揺らめかせた。
「さぁ、行こう。次、彼に会う時が楽しみだ」
「さてと」全て話し終わり、ヴレイズは腰を上げる。
「どこへ向かう気ですか?」急いで彼に付いていく準備をするミシェル。彼が何処へ向かおうとしているのかは大体予想が付き、目の色が変わる。
そんな彼女を見て、リヴァイアが止めようと立ち塞がる。
「まだクリスタルが完全に馴染んでいない筈だ。下手に動くんじゃない」と、リヴァイアは睨みを効かせる。
「しかし、貴方は今から決着を付けに行くつもりでしょう!! 私は絶対に立ち会いますよ! そしてトドメは……」拳を強く握り込み、鼻息を荒くさせる。
するとリヴァイアも立ち上がり、胸の下で腕を組みながらワザとらしくため息を吐く。
「一応、仕損じない様に私も同行するわ」と、リヴァイアはミシェルに自分の回復魔法を施す。「奴は追い詰められた獣よ。油断しないで」
グレイは独り、自軍拠点の作戦会議室の椅子にぼんやりと腰掛けていた。
残った部下や仲間はひとりもおらず、ガランとした拠点は静まり返り、風の音のみが耳障りに響いた。
「……来たか、ヴレイズ……」と、顔を上げて立ち上がり、作戦会議室の建物を火炎爆発で破壊し、破片と蒼炎をばら撒く。
それを見切ったヴレイズは全ての破片を消し飛ばしてミシェルらを守る。
「グレイ……」彼は一歩前に出て、兄を見据える。
「共に女性を、ひとりは軍団長、もうひとりは賢者か。いい身分だな」と、グレイも一歩前に出て間合いスレスレまで近づく。
「言った通り、兄弟として決着をつけにきたぞ」と、周囲で燃え盛る火炎を熱操作魔法で鎮火させる。
「……お前はひとりで炎の魔人に勝ち、あの灼熱の塔を破壊した……お前は……」
「ひとりじゃない!」
ヴレイズはピシャリと言い放つ。
「なに?」耳を疑う様に聞き返すグレイ。
「俺はひとりで強くなったと思い上がった事は一度もない! いつも俺には仲間がいた!」
「仲間……」グレイは自分の手を見て、強く握り込み、目を血走らせた。
「自分の為だけではない、仲間の為に強くなったんだ! それを……」
「俺だってそうだ!! だが、俺は……」と、鬼面で牙を剥きだし、禍々しい蒼炎を背負う。
すると、ミシェルが一歩前に出て叫ぶ。
「なにが『俺だってそうだ』ですって?! お前は自分の仲間すら切り捨てて殺し、力を握ろうとしたクソ野郎じゃないの!!」
そこで畳みかける様にリヴァイアも前に出る。
「しかも、貴方は一国に喧嘩を売り、どれだけの人間を殺してきたかわかる? 貴方は裁かれなければならないの。観念しなさい」
「……さっきも言った通り、ここは俺に任せてくれ。兄は俺が止める!」2人よりも前に出たヴレイズは、指の骨を鳴らしながら魔力循環を早める。
「お前が止める、か……生意気な弟だ……」グレイは苦笑する。
「やれるものなら、やってみろ!!」
グレイは蒼炎を爆発させ、一瞬で距離を詰め、火炎刃を薙ぎ払う。
ヴレイズはそれを見切り、グレイの二の腕を掴む。
その力の流れを読んだのか、グレイはそのままヴレイズの力を利用して投げ飛ばし、更に腹部に火炎の球体を作り出す。
が、ヴレイズは彼の魔力の流れを掴んで一瞬で鎮火させ、腹で炸裂しそうになっていた蒼炎の爆発を吹き消す。
「やり難いな」グレイは忌々しそうに口にしながら距離を取り、腕を摩る。
「早くは終わらないな……だが!」と、ヴレイズは矯正鎮火魔法を発動させ、グレイが纏う炎のオーラを消し飛ばそうとする。
しかし、グレイはその魔法を正面から受け止め、掻き消す。
「なに?!」急な対応に狼狽するヴレイズ。
「お前が学習できたのだ。俺にだって出来る!!」と、ヴレイズの炎のオーラを吹き消す。
「……流石だな、今のあんたなら、炎の魔人にも勝てたかもな」
「そうだ、お前を超えて俺は、更なる力を!!」グレイは目を血走らせ、蒼火炎を纏って襲い掛かった。
そんな彼の姿を見て、リヴァイアは呆れた様にため息を吐く。
「力に溺れ、正気を失い、本来の目的を失った者の姿だな……」彼女自身、何人も己の力や技術に溺れた者を見てきた為、グレイを哀れに思っていた。
「……グレイ」ミシェルは兄の仇であるため、己の中の復讐心を滾らせていた。しかし、同時に身に覚えのない記憶が心中に湧き上がり、やるせない気持ちに襲われていた。
なぜなら、彼女のクリスタルはジャルゴと炎の魔人の体内を経て戻って来た代物であり、その2人の記憶を淡く受け継いでいた。
ジャルゴから見たグレイの記憶。
そして炎の魔人グラードの記憶。
この2つが入り混じり、ミシェルの復讐心が複雑なモノになっていた。
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