4.ヴレイズVSグレイ 1戦目

 ヴレイズは黒い大地と呼ばれるサンサ族集落跡地へと急行する。『黒い大地』の所以は、ヴェリディクトが集落を消滅させた際、大地が真っ黒に焼け焦げてからそう呼ばれていた。

 飛行の最中、ミシェルの言っていた砦に差し掛かり、彼は急降下して着地する。それと同時に凄まじい火炎爆発の衝撃波が響き渡り、一瞬で砦内の戦力は半壊する。

「い、いきなりなんだぁ!!」と、目を回したグレイの兵らが顔を強張らせる。

「恨みはないが……いや、あるか。いいや、ないな。ま、悪く思わないでくれ」と、一瞬で砦内に残る戦力に集中し、腕を振るう。その瞬間、空気が燃え上がり、兵たちの鼻へと灼熱が入り込んで貫く。この砦の兵らは魔法対策を怠っていた為、成す術もなく気絶していった。

 あっという間に砦の戦力はゼロとなり、ヴレイズは悠々と揚げられた旗を焼き、制圧の狼煙を上げて飛び立つ。

 その間、5分もかかっていなかった。

「さて、急ぐか」と、ヴレイズは飛び立ち、次々と砦や敵拠点を墜としていき、1時間ほどでサンサ族集落跡地へ到着する。見張りの兵を蹴散らし、調査テントへと急行する。

「意外と簡単に来られたな」と、テントを熱風で吹き飛ばし、中にいる者を睨み付ける。その者は掘り返された底でしゃがみ込みながら、メモ帳片手に何かを調査していた。

「もう来たのか……意外と早かったな」と、メモ帳を懐に仕舞いながらジャルゴが立ち上がる。マスクの向こう側でぎらつく目でヴレイズを睨み返す。

「お前は?」不意の攻撃に備えて魔力循環を緩めずに見据えるヴレイズ。

「幹部のジャルゴというモノだ。おっと、動くなよ?」と、素早い腕の動きでエレメンタルフレイムガンを構える。

「そんな物が俺に通じると?」目の奥に炎を揺らめかせながら口にする。ジャルゴの周囲にいる取り巻き連中にも注意を払うが、実力は砦の兵と変わらなかった。

「ま、念のためだ。それより、話を聞け、グレイの弟。これから我々は炎の魔人の力を解放する。お前も手を貸せ。その方が、お前らの為にもなるぞ?」

「ふざけるな! それはサンサ族が封印した、」

「何故封印したのか、この炎の魔人の力はどれだけの脅威なのか……詳しく知っているのか? お前は……」と、頭をカクカクと揺らしながら口にする。その仕草は笑っている様にも怒っている様にも見え、ヴレイズの目には不気味に映った。

「……ぐっ」ロクに下調べもせずに来た事を後悔し、奥歯を噛みしめる。

「だったら、人に言われるがまま動かずに、自分で考えたらどうだ? この炎の魔人の力は、あの魔王に匹敵する程の力を秘めた素晴らしいモノだ。お前は魔王討伐を目指して旅をしているのだろう? 欲しくないか? え?」と、ジャルゴは一歩一歩ヴレイズに近づく。

「なんだと?」ヴレイズは拳を握り、迷いの汗を流す。

「それに、グレイの目的もいずれは魔王討伐に向く。先を見るならば、兄弟手を取って協力し、この炎の魔人の力を使った方が良くないか?」と、含み笑い交じりに口にする。

「っぐ……だが、お前らはこの国を潰して自分の国を作るつもりなのだろうが! 俺はそう言うやり方が気に入らないんだよ!」

「国とは、そうやって滅び生まれるモノだろう? 自分の思い通りになる国を作り、統治する。誰もがそれを夢見る。お前の仲間のラスティーもそうだろう? お前の兄もそうなのだ。弟なら協力したらどうだ?」

「ラスティーと一緒にするな!!」腹の底から怒鳴り、怒りを露わにした様に炎を燃え上がらせる。

「……お前はグレイの何が気に入らん? あの男は中々に凄い男だぞ? 数千の炎使いを纏め上げ、この国をあと少しで手に入れようとしている。しかも、あの水の賢者を脅かす程の実力を持っているのだ。大人しく従った方が……」

「そう言えば、お前の構えるその武器。封魔石を仕込んでいるだろう?」ヴレイズは相手のペースに呑まれない様に話題を変え、ジャルゴの銃を指さす。

「何?」

「銃の性能を損ねない様に弱めの石を詰めているな? その程度の石じゃ、俺を制すことは出来ない」と、調子を取り戻し、迷いを振り払う。

「ただのバカではないか……だが、時間は稼げたな」と、ジャルゴは銃を降ろした。

「……いや、俺も待っていたところだ」と、ヴレイズは振り向いた。

 その先にはグレイが腕を組んで立っていた。

「やぁ、ヴレイズ。仲間に入りたくて来たか? それとも……」

「お前を倒しに来た! サンサ族の守っていた力は、このまま目覚めない方がいいに決まっている!」

「……なぁヴレイズ……俺が暴君に見えるか? 力を私利私欲で使う様に見えるか? なぁ?」グレイは青い炎を淡く纏いながら歩を進め、間合いギリギリまで近づく。

「あぁ、見える」と、灼熱を纏う目でグレイの魔力循環の流れを確かめる。

「なら、やるしかないな……残念だが……」と、組んでいた腕を解き、魔力を解放する。周囲に蒼い炎が舞い、燃え上がる。

「あまり暴れるなよ。ここにあるモノは貴重な物ばかりだ」と、ジャルゴと部下たちはそそくさと彼らから遠ざかった。



 ヴレイズは右腕フレイムフィストを燃え上がらせ、赤熱化させる。

 グレイはそれに応える様に腕に禍々しい蒼炎を纏い、ズイズイと間合いを詰める。

「……まずはお前が打ってこい。この数十年でどこまで実力を上げたか見たい。最後に見た時は確か、火花を出すのが精いっぱいだったな?」

「舐めていると後悔するぞ!」と、ヴレイズは遠慮なく八分程度の力で連撃を撃ち込む。手を抜き過ぎず、されどやり過ぎないその攻撃は、十分実力者を殺害出来る程の威力を秘めていた。

 そんな連撃をグレイは見向きもせず、ヴレイズの目だけに集中しながら受け流す。

「格闘術、魔力の練り上げ、タイミング……お前がどんな旅をして来たのかが雄弁に伝わってくるぞ」グレイは瞳をギラギラと光らせ、微笑む。

「コレが全てだと思うな!」ヴレイズは連撃を速め、間合いを離すために爆炎衝撃波を放つ。

 が、グレイはその衝撃波を意図も容易く通り抜ける。

「成る程……燃やすモノを選ぶ炎。サンサ族の炎か……お前の炎はオヤジたち同様甘っちょろいな……サンサ族の真なる矛たる、蒼き炎を何故纏わない?」ヴレイズの炎から特徴を読み取り、満足した様にため息を吐く。

「それは、間違った力の使い方だ! 村長が言うには……」

「村長が何だ! オヤジがなんだ! そいつらの戯言に耳を貸すなヴレイズ!!」

「そう言うお前だから俺は止めるんだ!!」ヴレイズは拳を固め、振り抜く。

 グレイは鼻先でそれを止め、強く握る。

「そんな考えの者は我が国にはいらない……が、お前は殺したくないんだ」と、蒼火炎の嵐を浴びせかける。

 ヴレイズはそれを振り払おうとしたが、消えることなく纏わりつく。

「ぐっ……! これは!!」と、火炎衝撃波で吹き飛ばそうと試みるが、自分の炎が鎮火するのを感じ、片膝を折る。

「これが誇り高き蒼い炎だ。2流の炎を焼き尽くし、他属性の者を寄せ付けない……さぁ、身を委ねろ」と、温度を強める。

「……っあ……」目が霞み、身体から力が抜けて行く。想う通りに魔力を発揮出来ず、呼吸すらも奪われる。

 しかし、ヴレイズは最後の力を振り絞り、脚から炎を絞りだし、爆炎を周囲へ撒き散らす。自分は上空へと舞い上がり、そのまま大空高く飛翔する。その間になんとか蒼炎を振りほどく。

「飛べるとは驚いた……成る程、馬鹿に早くここへ来たと思ったら、そう言う事か」と、グレイも脚の蒼炎を纏い、跳び上がる。

 すると、ヴレイズは彼の出鼻を挫く様に鋭い火炎弾をばら撒く。

「ぐっ、上手いな」と、火炎弾を叩き落としながら後退し、着地する。

 ヴレイズはそのまま遠く南へ飛んでいく。

「……また会おう。その時、炎の魔人は我が手に……」と、手中で転がした火炎弾を握り潰す。

「逃がしていいのか? グレイ」戦いの終わりを悟り、ジャルゴが背後から近づく。

「あぁ。どうせまた戻ってくる。蒼炎の対策方法を見つけ出して、な」

「そんなのがあるのか?」

「サンサ族だけの手法だ。それより、遺跡の入り口は見つかったのか?」

「あぁ……内部の仕掛けを動かすにはまだ少し時間がかかる」と、ジャルゴは手で合図をし、部下たちに作業再開の合図をした。

「急げ。砦襲撃隊は付け焼刃だ。ヴレイズが来た事によって戦力は大幅に削られている。一気に敵の戦意を削ぎ、こちらの士気を上げるにはコイツが必要なのだ!」と、グレイは目をギラつかせた。



 その頃、ヴレイズは高度を下げていき、何も無い荒野へ不時着する。

「ぐぁっ! ……やっぱり無策で突っ込むもんじゃないな……」と、手の中で未だに燻る蒼炎を忌々しそうに睨み付ける。

「だが、次は無いぞ……グレイ」と、炎の中から懐かしいモノを感じ取りながら目を瞑り、そのまま気絶する。

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