100.ミラVSブリザルド 2戦目

 ブリザルドは竜巻を極限まで圧縮したブレードを手に、優雅に構える。

 それを見てミラもカマイタチの剣を両手に作り出し、大きく広げる。

「お前のその剣では、読んで字の如く、太刀打ちできんぞ?」と、自信たっぷりに足を踏み入れ、竜巻剣を突き入れる。

 すると、彼の足元が十文字に鋭く斬り裂かれる。

「私のウィンドブレードを味わってから言ってください!」と、素早い振りで無数のカマイタチを作り出し、余裕顔の彼に無数に浴びせかける。それら全ては要塞に使われる鉄壁すら紙切れの様に斬り裂ける威力を持っていた。

 そんな必殺級のカマイタチを目の前にしても、ブリザルドは涼し気な微笑を浮かべていた。ゆったりした動きで竜巻剣を掲げ、一瞬で無数のカマイタチを消し去る。

 この竜巻剣は、ブリザルドの絶技、圧縮竜巻砲を剣に変えた災害級の威力を持った兵器であった。彼がその気になれば、一振りで街を壊滅させる事が可能なほどであった。

「同属性同士の戦いは、実力差が顕著に表れる」と、ブリザルドは一瞬で彼女の間合いの内へ入り、軽く竜巻剣を振り下ろす。この一撃は、例え避けたとしても竜巻に吸い込まれ、直撃したが最期、バラバラに塵ひとつ残さず消え去る事になった。

 彼女はカマイタチの剣でそれを受け止め、脚を踏ん張る。が、一瞬で剣が吹き飛び、眼前まで竜巻が迫る。

 次の瞬間、ミラは風圧波を放ち、竜巻剣の必殺範囲から逃れる。

「く……っ」が、判断が一瞬遅かったのか、彼女の両手はズタズタに斬り裂かれ指は飛び、夥しい血が流れていた。風の回復魔法を使い、一瞬で止血し、飛び散った肉片を呼び寄せて手の形を元に戻す。

「で、どうするつもりだ? 次は?」と、彼は得意げな表情で竜巻剣を消して腕を組む。

「その慢心が命取りだ……」ミラは汗だくの顔を拭いながらも余裕の笑みを覗かせた。



 グロリアとブロンは堂々と城の正面へと立ち、見張りの兵を簡単に気絶させる。脚を踏み入れた瞬間、彼らの正面に数十人のグレイスタン兵が現れ、槍を構えた。

「何用だ」隊長が目を鋭くさせて2人を睨み付ける。

「ローズと言う女を匿っているはず。素直に出せば、ここにいる兵たちに危害を加えないでおこう」と、彼女は殺気を堪えながら口にする。

「危害を加えないだと? この数をあい……て……」と、言葉が急に詰まり、恐怖で脚が震える。周りの兵たちも目を見開き、数人が武器を取り落とす。

 この原因はグロリアの凄みではなく、隣のブロンから発せられる殺人的な殺気にあった。彼の放つそれは戦場の猛者すらも震え上がらせる程の狂気を孕んでいた。

「すっごい殺気だけど……うわぁ……」彼らの気配に気が付き、急行したキャメロンがブロンを目にし、冷や汗を垂らした。

「来たか、グロリア」ローズは吸っていた煙草を吐き捨て、指の骨を鳴らした。が、隣にいる殺気の塊を目にし、目を丸くして仰天する。「え……? ジャレッド? 人間の複製を作ったとは言っていたけどここまで……?」と、目を疑う。

「もう任務だの世界の影だのどうでもいい! お前だけだ! お前を殺せればどうでもいい!! 死に場所を選べ!!」彼女も負けじと殺気を吹き上がらせ、稲光を上げる。

「その御誘いに付き合ってあげてもいいけど……お隣はどんなつもりで来たの?」と、ブロンの方へ顔を向ける。

「俺は戦えればいい……極上の……殺し合いが出来ればいい」彼はぐにゃりと歪んだ笑顔を覗かせ、周囲の兵を震え上がらせた。

「この気配、間違いなくジャレッドだ……でも、何故?」



 ブロンは世界の影の手によって作られた人造人間であった。ガルオニア城地下施設で行われた実験の賜物であり、光の魔人ヴァルコと同じ様に作られたのであった。

 世界の影は、過去に覇王に認められし者たちの才能に目を付け、彼らの遺伝子情報をどこからか収集し、優秀な兵士を作り出す計画を企てていた。そのプロトタイプがヴァルコとブロン、そしてもう一体であった。

 ブロンのコピー元であるジャレッドはエリックの相棒の中でも一際、凶暴な性格の戦士であった。が、戦術や恐怖を与える方法などが上手く、最強と謳われるエリック・ヴァンガードに並ぶと称されていた。

 そんなジャレッドは身分と性格を隠し、魔王軍黒勇隊の初代総隊長となり、内部からナイアらに魔王軍の機密を横流ししていた。最終的には勇者たちを集めて『勇者の時代、最後の大反乱』を起こして魔王に処刑されたのであった。

 本来人造人間は人格を抑制され、操り人形の様に無感情であった。が、そんなジャレッドの凶暴な性格がグロリアの復讐心に応えて覚醒し、現在の彼に至るのであった。



 ローズは彼女の誘いに応え、言われるがままにグレイスタン城下町郊外へと向かい、荒野に向かい合った。罠がある様子もなく、乾いた風だけが吹く。

「いいの? 一応、あぁは言っているけど世界の影の連中だよ?」キャメロンは警戒する様に口にしながらブロンの方へ視線を集中させる。

「ラスティーの策が上手く行ったのなら、残りはこの2人だけ。連中はリスクの大きい任務はやらない。この2人はきっと、撤退命令を無視してここに来ている」

「……あっそ」と、これ以上の質問は野暮だと思い、口を塞ぐキャメロン。

「ここは私たちだけだ……さぁ、いくよ!!」グロリアは一足飛びでローズの間合いへ入り込み、雷速の蹴りを放つ。彼女はそれを片手で受けながら後退しながら全身に魔力を込める。

「正直、アタシも待っていた所なんだよ! あんたとは白黒つける!!」と、片目に雷光を宿す。

 そんな2人を目にしながらキャメロンは鼻で笑う。

「楽しそうでなにより……で、あんたは? あたしとヤルの?」キャメロンはブロンに向かって負けじと殺気を放った。が、彼の殺気は嵐の様な激しさがあり、吹き飛ばされそうに膝をガクつかせる。

「お前じゃ少々役不足気味だな……ローズと2人で来れば、楽しめそうだが」と、ブロンは小馬鹿にする様な口ぶりをしてみせる。

「なにぃ?」気に入らない様に且つ挑発する様に聞き返す。が、彼のセリフには自分でも納得していた。

「だが、ただ見物をしに来たわけでもない。少し遊ぼうか、お嬢ちゃん」ブロンは彼女を真っ直ぐ見据え、太い腕を組む。

 その瞬間、キャメロンは一瞬で背中に炎の翼を生やし、上空から蹴りを放った。その蹴りは大岩を一発で粉々にする程の威力を誇る瞬殺技であった。

 しかし、ブロンはそれを頭突きで迎撃し、彼女の足首を破壊する。

「んぎ!!」堪らず空中で宙返りし、距離を取ろうとしたが、既にブロンは空中の彼女の上を取り、腕を組んだまま丸太の様な脚で回し蹴りを放った。

 彼女は炎障壁を展開しながらガードを固め、衝撃に備えたが、例え威力を殺してもその勢いは凄まじく、受け手に皹を入れる。

 キャメロンは堪らず間合いの外から更に大きく離れる。右足首は明後日の方向へ曲がり、両腕は鋭い痛みが奔っていた。

「くっそ……半端ない」いつもなら余裕の笑みで答える彼女であったが、余裕が無さそうに呻いた。

「……遊びにもならないか」ブロンは退屈そうにため息を吐きながら着地し、一瞬で彼女の間合いに入り込み、腹部に左鉤打ちをめり込ませた。

「ぐばぁ!!」不意の衝撃が肝臓に撃ち込まれ、腸全体がパニックを起こす。膝が壊れた様に崩れ、地面に転がって凄まじい激痛に悶える。

「……これはただの喧嘩でも決闘でもない……単純な殺し合いだ。もっと本気でやれ」ブロンは彼女の本性を見抜いたようなセリフを放つ。

 すると、キャメロンは吐血と共にガクガクと笑う膝を堪えながら立ち上がり、ブロンを真っ直ぐ見据えた。

「そうだね……あっちは誇りだの過去だのに囚われた決闘。こっちはそんな複雑なしがらみのない殺し合い……ただの獣同士のシンプルな……殺し合い!!」と、キャメロンは目に炎を蓄え、恐れずに彼の懐に潜り込む。

 そこからキャメロンは鬼面で彼の上半身に襲い掛かり、無数の火炎乱打を放った。

 彼は腕を組んだまま、火炎砲弾が如き乱打を全て躱し、蹴りを返す。

 キャメロンは必殺の蹴りを掻い潜り、お返しに火炎膝蹴りを喰らわせる。

「い~い暴力だ……気に入った、遊び甲斐がある!」

「この変態め!!」



「がぁ!!」全身ズタズタに斬り裂かれたミラはブリザルドの眼前にひれ伏す形で倒れる。彼女と彼の実力差はほんのわずかではあったが、実戦経験と風魔法の応用力の差で彼に敗北していた。

「お前はまだまだ若いな……だから私には勝てない」

「そんな若い連中にあんたは負けたんでしょう?」一瞬で傷を治し、風の魔障壁を張りながら後退するミラ。

「……貴様。私を怒らせても何の得もないぞ?」

「いいえ、怒りと慢心であんたは負けるのよ。この私に……いいえ、我らに!」と、目を光らせる。

 すると、ブリザルドの背後に凄まじい魔力を持った者が2人立つ。その2人はガイゼルとエミリーであった。彼らは気配を完全に消し、2人の決闘場へ潜り込んでいた。

「2人だけの決闘ではなかったのか?」ブリザルドは彼らの気配に気付き、呆れた様にため息を吐く。

「正直、私もそのつもりだったが……決闘よりもククリスよりの任務を優先させて貰ったまで。この3人を相手にどうする? 元賢者!!」ミラは決意に輝く瞳で睨み、指を向ける。

「……ふん」ブリザルドは3人に囲まれながらも、弱った様な顔を見せずにほくそ笑んだ。



「ブリザルドが動いたか」グレイスタン城内をひとり静かに歩くクリスは楽しそうに微笑んだ。彼は普段のローブを脱ぎ捨て、黒いプレートスーツの上からコートに身を包み、ボウガンの様な銃を腰に備える。腕のガントレットのスイッチを入れると、光魔法を応用した機能が働き、周囲の光を屈折させて自身を透明化させた。

「さて、行こうか……」

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