39.闇の刺客たち
廃城内の探索が始まってから15分。
ヴァークは書物庫に足を踏み入れ、『暗黒の世界』という書を手に取り、目を落としていた。他の隊員たちは棚や引き出し、壁の裏などの怪しい場所をひっくり返していた。結果、隊員たちからの収穫は無く、皆がまばらにため息を吐き出す。
「やっぱり、表側にあるモノは全部フェイクか?」
「簡単に見つかるわけが無いだろ! もっとまじめに探せ!」
「てぇか、持ってきたどのセンサーにも引っかからないって、どういう事だよ!」
皆が胸の内を零していると、ヴァークが本から顔を上げ、隊員たちの方を向く。
「皆、こんなかび臭い場所で仕事をさせて悪いが、あと15分は粘ってくれ」彼は、はにかむような微笑を向けた。
「「「「「了解です!」」」」」隊員たちは声を合わせて敬礼し、作業を再開する。
「でも隊長、本を読んでいるだけじゃないか?」と、ひとりが呟くと4人が「黙れ」と言わんばかりに頭を引っ叩いた。
そんな彼らを尻目にヴァークは速読で頁を捲り、内容を頭に詰め込んでいった。
「封印された闇属性、か……」
レックスは探索よりも戦いに夢中になり、ずんずんと廃城の奥へと進み、2階へと向かっていた。代わりに隊員たちがレーダーを片手に探索し、埃被った机をひっくり返していった。
「おらおらおらぁ!!!」身体が温まったのか、大太刀を振り回す速度が上がっていく。その速さに合わせて隊員たちが飛び散る血と肉片を避ける。
「副隊長ノッてるなぁ……」
「新しい隊長が来たのもあってか、むしゃくしゃしてるもんな……」
「次期隊長候補だったもんな……」
すると、聞こえていたのかレックスが勢いよく振り返く。
「お前ら、ぐちゃぐちゃ無駄話している暇があったら、もっと集中しろ!!」と、言いながらも背後から近づくダークグールの脳天を肘で砕き潰す。
「「「「「は、は!!」」」」」
「ったく、聞こえないと思ってよぉ……」レックスは大太刀を肩に担ぎ、正面の大扉を蹴り開く。その先は舞踏会場であるのか、広々としており、シャンデリアが中央で地に落ち、朽ちていた。
そして、そこにはダークグールが群れを成し、棒立ちで窓の外から中庭を眺めていた。
「なんだ? 集会か?」と、無警戒で脚を踏み入れる。
次の瞬間、窓ガラスが勢いよく割れ、6メートルほど大きな獣が現れる。大きなモヒカントサカが特徴的な熊とも狼とも取れない形相をした獣だった。
そんな獣は黒い吐息をと涎を垂らしながらダークグールをむんずと掴み、頭を齧り取ってむしゃむしゃと食べる。
「お、なんだか面白そうなのが来たな」レックスは首の骨を小気味良い音を鳴らす。他の隊員たちにはハンドサインで『入室するな』と送る。
巨大な獣は他のダークグールを引き千切り、真っ二つにして腸を啜り、噴き出る血を、喉を鳴らして飲む。
そんな獣をダークグールたちは抵抗も逃走もせずに黙って見ていた。
「一体なんだ? 不気味だな……」と、口にしながら大太刀を床に突き刺し、両指を咥えて思い切り噴く。良い音が舞踏会場に響き、人外の者たちが一斉に彼に向かって振り向く。
食事のリズムを乱されたのが癇に障ったのか、獣は涎の飛沫と濁った咆哮を上げ、彼に向かって食べかけのダークグールの上半身を投げつける。
レックスはニヤリと笑い、それを更に真っ二つに斬り裂きながら前方へ駆け、平気で大獣の間合いへ臆せず入り込んだ。
「いくぜ!」
「アレ?」地下牢獄を探索するリサたちは、協力してダークグールの撃退にあたり、その合間に小部屋を調べる。隠し扉が無いか、風魔法を流し込み、風の流れを確認する。が、思うように見つからず地団太を踏む。
「こんな怪しい所に隠し扉のひとつやふたつ、普通あるだろうが!?」苛立ち混じりに地団太を踏むジップ。
「まぁまぁ、そんな簡単に見つかったら隠している意味、ないでしょ?」と、エルが口にする。
「ま、確かにそうなんだが……」と、ため息交じりに棚をひっくり返す。
「あ~あ……」
そんな中、リサが号令を発して隊員たちを集める。
「皆、何か収穫は……あれ? ひとりいない?」と、周囲を確認する。隊員たちも皆、牢獄フロアを確認する。が、影も形もなく、場がどよめく。
「風のセンサーにも反応が無い!」
「ダークグールの仕業か?」
「新手か? 何もんだ!! 出てこい!!」ジップが声を荒げ、闇の中へエレメンタルガンを乱射する。
「冷静になってください!!」隣のエルが慌てて彼を押さえる。
「……気配も物音もない……」リサはエレメンタルバスターガンを静かにチャージし、鋭い眼光を闇の中へ向ける。「でも……何かが潜んでいる」
数分経っても事態は好転せず、何も変化が無いため、リサは探索を再開させる。
「えぇ……こんな雰囲気で調査なんかできませんよぉ……」エルは震え声で次の小部屋の扉を開き、クリアリングをし、ジップと共に入室して探索する。
すると、扉が勢いよく閉まり、部屋の灯が消える。
「うぉ!!」と、2人が反応する前に扉が突き破れ、リサが飛び込んでくる。
2人が蝋燭の火を付け直すと、眼前ではリサが黒衣の剣士にバスターの銃剣を向け、銃口を光らせていた。
「見つけた! ウチの隊員はどこだ!!」リサは額の血管を浮き上がらせ、奥歯を鳴らす。
それに対し、黒衣の剣士は一瞬で銃剣の切っ先を斬り払い、小部屋から風の様に飛んでいく。
「逃がすか!!」と、火炎弾を連射する。
黒衣の剣士はその攻撃をツインブレードで全て斬り払いながら後退する。火花が黒衣に燃え移り、一瞬で燃え尽きる。
マントの向こうは黒い軽装の皮鎧を着こんだ女剣士であった。肌はダークグールの様に黒い斑点が浮き上がっていたが、目は紅く、意識がハッキリとしていた。
「……あんた……」リサは知った顔を見た様に狼狽し、バスターガンを下げる。
「私の事、覚えてた?」
その者はエリザという訓練生時代の同期であった。
「何度か手合わせしたっけ……そっか、あんたが4番隊の副隊長だったか」
「ちゃんとブリーフィング受けたの?」エリザは微笑を浮かべながら鼻で笑う。
「副隊長としか聞いてなかったし」と、顎を掻いて誤魔化す。
「あの頃からあんたって少しテキトーよね」
「はは、それがあたしのチャームポイントってね……で」
「あんたは生存者? それとも刺客?」
リサは目を鋭くさせ、再びバスターガンを向ける。
「ふふっ」エリザは頬を緩め、目を細めた。
その頃、ナイアはふらついた身体で研究所内を抜け、地下の抜け穴を歩いていた。気付け用の薬を口へ放り込み、頬を叩き、顔を左右へ振る。
だが、身体が重く壁に寄りかかり、息を荒げる。
「用意はしていたんだけど……脇腹を突かれたって感じかな……」と、膝を付く。
もう歩けないのか手を付き、ついに頭を地面にゴンとぶつける。
「くっ……不本意だけど、ここで休ませて貰おうかしら……」と、懐に隠し持っていた薄い布を広げ、その中へ隠れる。すると、彼女の魔力に反応して周囲の景色を投影し、すっかりナイアの姿が消える。
「しばらくここで、仮眠させ……て……」と、言う間に彼女は寝息を立てずにそのまま意識昏倒する。
そんな彼女の後を追って黒衣の男が探しにやってくる。
「まだここら辺にいる筈……どこへいった?」と、目をギョロつかせて彼女を素通りした。
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